――公演に先駆けて、9月にはネリーのデビュー小説を翻訳した『ピュタン―偽りのセックスにまみれながら真の愛を求め続けた彼女の告白―』(PARCO出版)も発売されました。松雪さんも読まれたそうですね。
「頭にとめどなく浮かぶ考えや感情や感覚が、残酷なほど鮮明に言葉で書き表されている感じで、強烈でした。ネリーの人生を知りたい、戯曲の詩的な言葉の美しさや強烈さがどこから来ているのか知りたい、と思って読み始めたんですが、最終的に死を選択して行く中で、彼女は何を思っただろう?と考えると、苦しくて。どういう道を辿ったら、これを舞台で表現できるのか?とんでもないプロジェクトが始まってしまった!と思いましたね」 ――舞台では、そんなデビュー作を含む4編の小説に描かれた、ネリー自身をも象徴しているテーマを、6つの部屋にいる6人の女性がそれぞれに表現。松雪さんは“影の部屋”にいる、死ぬことに魅了された女を担当されます。
「これが本当に苦しくて。そういう意味でも、今まで経験した中でいちばん強烈な作品かもしれません。私としては“影の部屋の女”として、ネリーの痛みを最大級に表現するのみです。部屋の壁に仕切られて、私達はお互いを見ることもできないんですが、6人一緒に歌う場面では、すでに美しいハーモニーが生まれつつあるんですよ。ネリーの世界をこんな形で舞台芸術に落とし込んだマリーさんは、本当にすごいと思います」 カナダ大使館にて撮影。子どもの頃からバレエと日本舞踊を習っていたこともあり、その体はしなやかで美しい。
――「この作品で、女として生きるということ、女であるということを表現したい」というマリー氏のコメントを読みました。松雪さんご自身は、女に生まれてよかったと思われますか?
「私は男に生まれたかったですね。子を産み出すという体験ができたり、美しく装うことを楽しめるという点では、女性でよかったなと思いますが、ネリーも書いているように、女性のほうが“こうあらねば”ということが多くて大変だと思います。でも正直、個人的には、社会の見方とか、世の中の価値観とか、関係ないじゃん!と思っていたりします(笑)。何に価値を置くかは人それぞれだから、自分が生きる場所が自分にとって豊かなもので、そこに自分の真実があれば、それで十分。自分の人生の責任は、自分自身しか取れないのだから、ちゃんと自分が思うように生きるべきだなと、この年になってまた改めて感じますね。私自身の生きるスタンスを貫いて、最後まで生きて行きたいなと」