理想の人間像を描いた復活の場
【力強い人間の理想像を初披露したエロイカ・ザール】
ハイリゲンシュタットからの復活を象徴する交響曲第3番(従来説では、ナポレオンに失望して「エロイカ(英雄)」と改題)、ロプコヴィッツ侯爵邸内エロイカ・ザールにて作曲家自身の指揮により初演されました。音楽、美術、天文学などの寓意が天井画に描かれた知性と芸術が融合するこの場で、ベートーヴェンは王侯貴族や各界名士と懇意になっていった。【アン・デア・ウィーン劇場で理想の夫婦愛を大合唱!】
「気高き女性を勝ち得たものは、和して歓呼の声を挙げよ」。為政者に囚われた夫を妻が助け、美徳を讃える大合唱で終えるオペラ『フィデリオ』。ベートーヴェンは、当時この劇場の一隅に住みながら完成させ、1805年にここで初演を行いました。約1000席の親密な空間では、昨今はオペラの現代的演出などもなされています。そして歓喜の歌はバーデン郊外の「第九の道」で構想された
苦悩から歓喜へ、闇から光へ――ベートーヴェンはなぜ光を見出すことができたのでしょうか。彼は自然や神との対話から神聖な光を感じ取り、自由主義や啓蒙思想から高貴な精神性という光を学び取りました。自分もそんな存在になりたいと願いながら。
しかし、聴覚を失うという苦悩を味わうことになります。深い闇の中で自己と向き合い、ついに見出した光、それが芸術でした。
この森の中で構想した生涯の集大成ともいえる「第九」は1824年に初演され、聴衆からは万雷の拍手、当時の音楽新聞は「奇跡の神秘」と讃えました。ベートーヴェンは光に満ちた世界を音楽の中に創造したのでした。
ベートーヴェンは後世の作曲家だけでなく他分野にも影響を与え、美術界ではグスタフ・クリムトが『ベートーヴェン・フリーズ』で「歓喜の歌」をテーマに人類の幸福を希求。東西ドイツの壁崩壊時には人類の融和を願い「第九」が歌われました。まさに人類に光をもたらす存在となったのです。
【何者にも邪魔されない、神聖な空間で生まれた「第九」】
澄んだ空気を吸い、木漏れ日を浴び、小川のせせらぎを感じ、地を踏みしめゆく、独りだけの時間。ベートーヴェンは何時間も歩き、この腰かけで休み、「第九」の構想をまとめ上げました。作曲家レリーフが静寂の中に。(ウィーンからバス・電車で約1時間、バーデン駅から車で10分、渓谷入り口から徒歩15分)。あなたも光を見出してほしい。この道の樹々の間に、「第九」の中に、心の中に。そんな声が聞こえてきませんか。
【生誕250周年特別企画】ベートーヴェン 魂を揺さぶる音に出会う旅
本特集の感動をそのままに体験できる、「ベートーヴェン 魂を揺さぶる音に出会う旅」にご一緒しませんか? この度、ウィーンにゆかりのあるベートーヴェンの生誕250周年を記念して、特別な2つのコンサートを心ゆくまでご堪能いただけるツアーを、“家庭画報の旅”として2020年5月に開催いたします。
ツアーの詳細はこちらの記事よりご覧ください>>> 撮影/武田正彦 小林廉宜 本誌・西山 航 武蔵俊介 取材・文/菅野恵理子 編集協力/三宅 暁 取材協力/太田真理エリザ 武田倫子 撮影協力/ドイツ観光局
『家庭画報』2020年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。