第25回
おしゃれ心がくすぐられる、大人の色無地、見つけました!
以前お伝えした金沢取材で加賀友禅の美しさを味わったわたくし、E子。実はそこで興味深い情報をキャッチしたのです! それはきものSalon古谷編集長が「加賀友禅 毎田染画工芸」にて三代目の毎田仁嗣(まいだ ひとし)さんと対談を終え、お二人で歓談していたときのこと……(詳しい内容は
三越きものゴコロ。にて公開中です。ぜひご覧ください!)。
対談が終わった後も、下図やパソコンの画面を見て盛り上がるお二人。今、毎田さんが色無地とおっしゃいました!? とても気になります……。毎田仁嗣さん(以下、毎田)「実は色無地を作っているんですよ。まだ試作段階ですが、柄はこんな感じで……」
古谷尚子編集長「素敵ですね~! この花はなんですか……」
お二人の会話を遠くから聞いてしまったのです! 詳しくはわかりませんでしたが、「色無地」という言葉だけは聞き取れました!
加賀友禅なのに色無地!?
E子の頭はクエスチョンだらけ。加賀友禅は美しい自然の情景を、手描きの彩色で表現する世界のはずです。なのに色無地!? 友禅はどこへ!?
これは後日、改めて毎田さんに伺わなくては!
毎田さん、加賀友禅なのに色無地の真相を教えてください!
東京へ戻り、早速毎田さんに突撃お電話取材をさせていただくことに。毎田さん、お忙しいところ失礼します。早速ですが、加賀友禅で色無地とは一体、どういうことなのでしょう。それとも加賀友禅の色無地は以前からあるもので、私が知らなかっただけなのでしょうか。
毎田「いや、あまり聞きませんね。私にとっては初めての試みです」
毎田さんの色無地がこちら。花唐草模様が優雅な地模様の白生地を、清らかな水色で染めました。落款もまた美しいブルーで染め上げています。なぜ、色無地を作ろうと思ったのですか。
毎田「色無地は万能きものと言われていますよね。帯で格を調整すると着て行ける場所も広がるので、きものを始める方にはおすすめの一枚です」
色無地は、きもの始めにもおすすめの一枚で、とくにお茶の世界では非常に重宝されているんですよね。でも毎田さん、加賀友禅部分はどこへ行ってしまったのですか!?
毎田「もちろん、私は加賀友禅作家ですから、単なる色無地を作ったわけではありませんよ」
描かれたのは星のような姿が美しいアマナという花。澄み渡る美しいブルーの世界で描かれています。なんと美しい青の世界なのでしょう。実は毎田さんの工房はお祖父様の代から、ブルーの表現で一目置かれていて、きものファンの間では「毎田ブルー」と呼ばれているほど。三代目である毎田さんが表現するその美しさもまた格別なのです。
でも毎田さん、これは色無地ではありません! 立派な加賀友禅です!!
毎田「E子さん、これは八掛部分なんですよ。今回の色無地は裏地に彩色しているんです」
この美しい彩色が裏地なのですか?
毎田「加賀友禅の作家として、多くの女性にきものを着てもらうために何かできないかと考えたとき、色無地が浮かんだんです。私の工房では、一貫生産で地染も行なっているので、白生地を染めることができます。それでちょっとやってみようと思いました」
こちらは袖裏部分。袂が揺れるたびに友禅の彩色で描かれたアマナがのぞくのだそうです。見えるか見えないかの世界に加賀友禅が描かれているとは、なんと贅沢なのでしょう。歩くたびに八掛から、そして袂が揺れるたびに袖裏から見え隠れするなんて……。その様子を想像するだけでうっとりしてしまいます。
白生地に描く前の下図。まるで設計図のように緻密で均整の取れた線画です。ちなみに右側の下図は毎田さんが色無地の裏地に用意したもうひとつの柄「松竹梅」。まるでコンテンポラリーアートのようです。毎田「はい。大人の女性にふさわしい色無地になったと思っています。そして裏に描かれた世界に興味を持っていただけたら、ぜひ本格的な加賀友禅もご覧ください。丁寧な作業と、遥か昔から受け継がれてきた技で描かれる日本の雅を堪能していただけたらと思います」
万能きものの代名詞的存在でもある色無地。毎田さんの色無地はおしゃれにこだわりを持っている大人の女性のスターターきものとして申し分ありません。また、何枚かお持ちの方も、おしゃれ心がくすぐられてしまう一枚かと思います。
毎田さん、突撃のお電話取材を受けてくださいましてありがとうございました。
毎田仁嗣(まいだ・ひとし)昭和49年金沢生まれ。23歳の時、父である毎田健 治氏に師事。平成27年星野リゾート界加賀の室内装飾を制作。平成28年アメリカフロリダ州ウォル トディズニーワールドのユニクロメインエントランスのディスプレイを制作するなど活躍の場を広げ続けている。祖父は毎田仁郎氏。