「僕らを前向きに導く“山中先生細胞”が日本中に増えていってほしい」──松岡さん
松岡 ちょっと話がそれるのですが、僕は膝を悪くしてテニスをやめて、走ることもできなかったんですが、自分の細胞を使った再生治療のおかげで走れるようになったんです。
山中 そうですか!
松岡 先生のご研究に近いところにある治療だったのではと思うのですが、おかげさまで現在は、先生が提唱されているエチケットを守ってジョギングを楽しんでいます。僕は、いくらでも増やせるというiPS細胞のように、僕らを前向きに導いてくれる“山中先生細胞”が日本中にどんどん増えていってほしいと思うんです。
山中 いやぁ、繰り返しになりますが、僕たち日本人は理解さえすれば、各自で考えて取るべき行動が取れるものです。国が「困っている人はちゃんと援助しますから頑張りましょう!」と最初の号令さえかけてくだされば、日本は大丈夫です。
松岡 心強いです!
「人間をなめたらあかんぞ!とウイルスにいいたい」──山中さん
松岡 ところで、この新型コロナウイルスとの日々で、山中先生ご自身も気づきがあったのではないでしょうか。
山中 うーん、そうですね。20年くらい前にiPS細胞を作ろうと思い立ち、10年ほど寝食を忘れて研究をして、作製に成功したんですね。今回こういうすごいウイルスが現れたことで、僕はウイルスの専門家でも公衆衛生の専門家でもない、ただの医学研究者ですが、再び闘志が湧いてきました。「人間をなめたらあかんぞ!」とウイルスにいいたいです。
松岡 なめたらあかんぞ!(笑) 僕も闘志が湧いてきました。
山中さんとの対談を心待ちにしていた松岡さんと、松岡さんの熱いメッセージ満載の日めくりカレンダーを愛用している山中さん。相思相愛のお2人だけあって、深刻な話題の対談も和やかに進行。一緒に大笑いする場面もありました。今は自由を我慢して社会に恩返しをするとき
松岡 最後に、今先生が日本のみなさんにいちばん伝えたいことをお聞かせください。
山中 それはもう、「社会に恩返しを」ということですね。普段は気づきにくいものですが、僕たちがテニスができるのも、研究ができるのも、社会に守られているからです。社会というと抽象的ですが、医療であったり、公共のインフラであったり、流通であったり、たくさんの人が社会を支えてくださっているおかげで、僕たちは自由に好きなことができているわけです。
しかし今、そのかたがたが悲鳴を上げています。ですから、今は普段謳歌している自由を我慢して、社会に恩返しをするときだと思います。1年、あるいは2年になるかもしれませんが、決して、一生続くわけではありません。ぜひ外出を控え、人との接触を控えることで、恩返しをしましょう。
松岡 「社会に恩返し」、心に響きました。今日は素晴らしいお話をありがとうございました!
山中さんより~
オンライン対談を終えて
テーブル上の人形は山中さんがイギリス出張時に購入したもの。「心が和むので置いています」。対談後、山中さんより感想が届きました。
「この対談が、1人でも多くのかたにとって新型コロナウイルスとの向き合い方の参考になればと思います。松岡修造さんはとても明るくて前向きなかたで、お話しさせていただき元気が出ました。対談させていただき大変光栄でした」
撮影/鍋島徳恭 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/大和田一美〈APREA〉(松岡さん) 取材・文/清水千佳子 撮影協力/京都大学iPS細胞研究所
『家庭画報』2020年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。