カルチャー&ホビー

日本人初の女性宇宙飛行士 向井千秋さん、“福澤イズム”を語る

2020.09.29

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福澤諭吉と向井千秋さんの共通項「好奇心」


偏見なく、否定せず、受け入れるという姿勢は、現代でいうダイバーシティ(多様性を認める考え方)やインクルージョン(多様な人材を生かす考え方)にも通じています。そういう先生だからこそ、どこへ行っても多くのことを吸収できたのでしょう。

諭吉とアメリカ人の少女
左・〔1960年 咸臨丸〕荒波にもまれる咸臨丸。航海中は連日の嵐だったが、軍艦奉行の従者として乗船していた諭吉は怖いと思うことがなかったという。鈴藤勇次郎作『咸臨丸難航の図』(複製本)/横浜開港資料館所蔵 右・初渡米時の記念写真。諭吉はアメリカ人の少女とすぐに打ち解けた。福澤諭吉写真 写真館の少女と共に(サンフランシスコ)/慶應義塾福澤研究センター所蔵


もう一つ素晴らしいと思うのは、「独立自尊」の精神のもと、学校や保険制度を作り上げたことです。

「独立自尊」とは、人に頼らず、自らと他人を同じように尊重しながら生きていくことと理解していますが、福澤先生は誰もがそういう生き方ができるようなシステムを構築された。これはすごくエネルギーがいることで、心から尊敬します。

私も年を重ねて、後輩の育成やシステムの構築をする立場になり、どうしたらうまくできるか、先生に教えを乞いたい気持ちです。

「スペースシャトルで聞いた応援歌“若き血”は心の拠り所でした」


宇宙へ行く際、乗組員は少しだけ私物を持っていくことができるのですが、そのときに人気なのが母校のペナントで、私も慶應のペナントを持っていきました。また、初飛行の際は、応援歌「若き血」をモーニングコールにしたこともあります。

人の不安感というのは、自分の拠り所を見失ったときに湧いてきます。地上であれば、天井も床も全員に共通ですが、宇宙では自分の天井が誰かの床だったりする。初めのうちはそれが面白いのですが、人と共通の基準がないという状態に、だんだん不安が募ってきます。

そんなとき、母校のペナントを眺めたり、「若き血」を聞くと、自分を取り戻せるのです。福澤先生が創ってくださった慶應は、私の心の拠り所。宇宙にいる私と地球とを繫いでくれた、大切な存在です。

スペースシャトル
左・〔1994年 コロンビア号〕年1994年7月9日、向井さんの乗るスペースシャトル「コロンビア号」が打ち上げられた。向井さんのお母さまは娘を心配するあまり泣き伏してしまい、その瞬間を見届けられなかった。写真/共同通信社 右・月周回衛星「かぐや」のデータをもとに作られた月球儀を手に「月旅行の添乗員がしたい」と楽しそうに話す向井さん。宇宙への好奇心は尽きることがない。

宇宙にいる自分と地球を繫いでくれたもの


もしも今、先生にお会いできるとしたら、50年先、100年先の未来がどうなっていると思われるか、聞いてみたいです。先見の明のあるかたなので。

先生にスペースシャトルの話をしたら、きっと宇宙へ行きたいとおっしゃって実行されるでしょうね。咸臨丸でアメリカへ行かれたときより、快適な旅ができることと思います。
撮影/本誌・坂本正行 取材・文/清水千佳子 取材協力/慶應義塾福澤研究センター、慶應義塾広報室

※参考文献/『学問のすゝめ』『文明論之概略』『福翁自伝』(以上岩波文庫)、『福澤諭吉 家庭教育のすすめ』『福翁百話』(以上慶應義塾大学出版会)、『女大学評論・新女大学』(講談社学術文庫)、『現代語訳 学問のすすめ』『現代語訳 福翁自伝』『現代語訳 文明論之概略』『おとな「学問のすすめ」』(以上筑摩書房)、『福沢諭吉 学問のすゝめ』(NHK 出版)、『子どものための偉人伝 福沢諭吉』(PHP 研究所)、『慶應義塾150周年記念 未来をひらく 福澤諭吉展』(慶應義塾)

『家庭画報』2020年10月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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