今回のような治験の最初の段階では、移植する細胞自体の安全性検査などに費用がかかります。
「今後、症例が増えてくれば、省いてもよい検査などがわかってくると思います。最終的には保険収載され、1000万円弱の価格になることを目指したいですね。うまくいけば細胞治療は1回で効果が長く続き、投薬や介護の必要が少なくなることを考慮すると、高額であっても価値があると考えています」。
パーキンソン病のように根本治療がない難病はもちろん、多くの人が経験する、生活の質が下がってしまう病気に対しても、iPS細胞による治療には大きな期待がかかっています。
【コラム】iPS細胞ストックプロジェクト
〔細胞治療の拒絶反応をできるだけ避ける〕日本人の約4割に適合するiPS細胞を作製・保存・提供して、治療効果を高め、時間とコストを削減
iPS細胞を用いる細胞治療には、患者自身の細胞をもとにiPS細胞を作製し、それを治療目的の細胞に変える方法と、健康な人から採取した細胞からiPS細胞、そして治療目的の細胞を作る方法の2つがあります。
患者自身の細胞を使うと、免疫の拒絶を防げる一方で、細胞作製や品質確認の手間と費用がかかります。
そこで、他人に移植をしても拒絶反応が起きにくいHLA(ヒト白血球型抗原)をもつ健康な人の血液からiPS細胞を作製し、安全性や品質を調べたうえで保存する「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」が国のプロジェクトとして進められています。
現在は、公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団によってストック細胞の製造と保管が行われています。今回紹介した髙橋さんの治験をはじめ、今年実施された大阪大学の治験でもこのストックiPS細胞が使われました。
現在作製済みのストックiPS細胞を用いると日本人の約40パーセントに拒絶反応が起こりにくいと考えられています。
財団では、「最適なiPS細胞技術を良心的な価格で届ける」ことを理念として、ゲノム編集技術により拒絶反応のリスクを小さくしたiPS細胞の作製や、1人1人の血液から100万円でiPS細胞を作製することを目指すmy iPS(マイiPS)の研究開発を進めています。
取材・文/小島あゆみ イラスト/にれいさちこ(本文)
『家庭画報』2020年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。