金時草(きんじそう)のおひたし、黄身酢かけ
金時草。今はスーパーでも見かけるようになりましたが、少し前まではあまり知られていませんでした。標準和名は水前寺菜(すいぜんじな)。名前の由来となったという熊本県水前寺地区の近くで私は生まれましたが、熊本にいるときはその存在さえ知りませんでした。
今は石川県金沢が主産地で、他にも愛知県では式部草(しきぶそう)、沖縄ではハンダマと呼ばれ、同じく伝統野菜となっています。
その葉は少し厚みがあり、表が濃い緑色で裏は紫色をしていますが、茹でると紫色は緑色になり、ぬめりが出ます。
今回紹介する金時草の酢のものには、黄身酢を使います。卵黄を用いた酢なのでこくを加えることができ、いろいろな野菜料理を楽しむ上で覚えておいて損はないと思います。
さらに一般的にあまり知られていないコツもお教えします。黄身酢を作る際には、是非、使い古しで結構ですので茶筅を使ってみてください。ダマができるなどの失敗がなく、滑らかな黄身酢になります。
茶筅は抹茶を点てる以外にも、多くの使い道があります。プロは振り柚子と呼び、柚子の皮をおろし金で削り、料理にふりかけるのですが、茶筅の先を短めに切ったものを使うと便利です。
日本の職人が生み出した道具の素晴らしさとその使い方の工夫には頭が下がります。今日はそんな道具を上手に使って野菜料理を楽しみましょう。
ちょっとしたコツ
・「金時草の黄身酢かけ」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素をクリア。
◎︎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激
・金時草は茹で過ぎるとぬめりや色、風味が損なわれるので、短時間でさっと茹でる。
・卵黄は68〜70℃でとろりとした状態になり、それ以上になると固まりだす。湯の温度を80℃くらいにして湯煎するとよいとろみになる。
・一般的な黄身酢は甘みや酸味がかなり強いため、素材の味を感じにくくなる。黄身酢は穏やかな味にして、その代わりに素材を土佐酢で下洗いするとおいしい酢のものになる。
・さらにこくが欲しければ黄身酢に油を少しだけ加えるとよい。マヨネーズを少量加える方法もある。
・まろやかさが黄身酢のよさではあるが、刺激が欲しければからしや柚子こしょうを加えてもよい。
「金時草のおひたし おろし生姜添え(右)」
作り方は「
モロヘイヤの海苔和え、酢のもの」参照
「金時草の黄身酢かけ(左)」
【材料(3人分)】・金時草 60g(茹でたもの)
・オクラ(せん切り) 1.5本分「
オクラと長芋の梅和え」参照
・長いも(5〜6mmのあられ切り) 大さじ3
・揚げ昆布(刻み昆布を揚げたもの) 少々
・ざくろ 少々
・みょうが(小口切り) 1/2個
・土佐酢 適量
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
・黄身酢 適量
・塩 少々
【作り方】
1.金時草は葉を茎から外し、大きい葉は食べやすい幅に切る。堅い茎の部分は使わない。
2.鍋に湯を沸かし、塩を少々加えて金時草を入れ、さっと茹でて冷水に放す。冷めたらざるに上げて水気をきる。
3.金時草をボウルに入れ、土佐酢をまぶして、再度ざるに上げて汁気をきり、手で軽く絞って、オクラ、長いもとともに器に盛る。
4.3に黄身酢をかけ、みょうが、ざくろ、揚げ昆布をのせる。なければ白板昆布を刻んで揚げたものでもよい。
黄身酢【材料(作りやすい分量)】・卵黄(溶いたものをガーゼなどでこしておく) 3個
・土佐酢 30cc
出汁4:薄口醤油1:みりん1:酢1の割合
・砂糖 小さじ1/2
・酢 10cc
・薄口醤油 小さじ1弱
【作り方】1.湯煎しながら黄身酢を作る。鍋に80℃の湯を用意し、弱火にかける。アルミ鍋を使う場合は、湯に醤油を数滴入れて鍋肌が黒く変色するのを防ぐ。ボウルに氷水を準備しておく。
2.湯煎用の鍋より一回り小さい鍋に、こした卵黄とすべての調味料を入れ、よくかき混ぜる。
3.湯煎用の鍋の縁に沿って湿らせた布巾などを半周ほど巻き、2の鍋を入れ、鍋同士がぶつからないように固定する。その時、2の鍋底が湯につかるようにする。
4. 湯の温度を80℃弱に維持したまま、ダマができないように茶筅で卵黄をかき混ぜながら、鍋肌についた卵黄も丁寧に集めてとろみをつけていく。
5.粘りがある糊状になったら、鍋ごと氷水に浮かべて急冷する。もしダマができたら、ガーゼや目の細かい水切りネットでこす。
※卵黄は火が入り過ぎるとおいしくなくなるため、火の入れ加減が重要なポイントとなる。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。