蓮餅のうなぎもどき、松前揚げ
今日は精進料理のもどき料理の中でもがんもどき(雁もどき)と並ぶ定番、うなぎもどき(鰻もどき)です。「
なすのきじ焼き」の回で、植物性食品を鳥獣肉に見立て、それに近い味を出すもどき料理について既にお話ししました。
精進料理は本来、戒律と禁忌の制約による修行のための質素な食事でした。現在、一般人にとっては、肉や魚を使わないための工夫を凝らした野菜料理という印象が強くなっているかもしれません。技巧を凝らしたもどき料理はその典型ですね。精進料理の一つの流れである普茶(ふちゃ)料理にはもどき料理が多く見られます。
それは普茶料理の成り立ちが中国の精進料理の延長上にあるからです。最近では台湾素食(スーシー。台湾の精進料理)がもどき料理として有名ですが、これも起源が同じです。元々は中国大陸から伝わったものが多く、肉や魚介および五葷(ごくん。にんにく・らっきょう・ねぎ・にら・のびる)を一切使わず、出汁も植物性のものだけで、ゆば、豆腐、こんにゃく、大豆たんぱく、小麦グルテンなどを用いてもどき料理を作ります。
中国の菜食とインドの菜食を比べると面白いことがわかります。インドの菜食には肉や魚介を連想させるもどき料理というような発想がまったく見られません。極端に言えば、野菜や穀物などにスパイスで変化をつけてそのまま食すという発想です。それに対して中国の菜食はもどき料理に見られるように、その根底に肉食に対する何らかの思いが働いていると感じられます。インドの菜食は基本的には肉の味を知らない人々による食文化であるため、魚や肉の代用(もどき)という発想が生まれるべくもありません。
ところが、中国の場合、元々は肉の味を知っている食文化であるため、インドから仏教が伝わり、その影響下で菜食となっても、では肉の代わりに?という発想でもどき料理が考えられたと思われるのです。
もどきとは何かに似せて作られたもので、そのもどきの方法は日本文化の「見立て」や「本歌取り」にも見られ、文芸や美術、茶の湯、和菓子でも発展しました。そして料理においても、もどきは偽物、代用品の域を超えて、がんもどきのように独自の価値を持つようになったものもあります。
今回は「
蓮餅の煮もの椀」で紹介した蓮餅の生地でうなぎもどきを作りますが、がんもどきのように豆腐ベースで作ることもできます。
音楽の世界でも過去に他人が発表した優れた曲をカヴァーすることがよくありますね。あなたならではのカヴァーで、大ヒットの野菜料理を生み出しましょう。もちろん、楽しみながら。
ちょっとしたコツ
・「蓮餅のうなぎもどき、松前揚げ」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。
◎︎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激
・生地を海苔に塗って時間が経過すると海苔が溶けてくるので、塗ったらすぐに揚げる。
・海苔に塗った生地に縦に竹串を押しつけて筋を入れ、横に包丁目を細かく入れるとさらにうなぎっぽく見える。その際、竹串や包丁を水で濡らすと生地につかない。
「蓮餅のうなぎもどき」(写真左)
【材料(2人分)】・蓮餅の生地 100g
「
蓮餅の煮もの椀」参照
・ごぼう(笹がき) 8g
笹がきごぼうは「
おからの酢炊き」参照
・ごま油 少々
・焼き海苔(7cm×10cm) 2枚
・揚げ油 適量
・たれ
濃口醤油大さじ1、みりん大さじ1、日本酒大さじ1、砂糖大さじ1
・粉山椒 少々
【作り方】
1.フライパンを火にかけごま油をひき、笹がきごぼうを入れて炒める。ボウルに蓮餅の生地を入れ、笹がきごぼうを加えてよく混ぜる。
2.海苔に1の蓮餅の生地を7〜8mm厚さに均一に塗る。濡らした竹串を縦に押しつけて中央にしっかり1本、その両脇にうっすらと2本筋をつける。濡らした包丁で横に細かく包丁目を入れる。
3.フライパンに揚げ油を入れ、170℃に熱して2を入れる。生地を塗った側が濃いきつね色になるように2〜3分揚げ、返して海苔側も1分ほど揚げたら、油から引き上げる。
4.たれ用の調味料をフライパンに入れて火にかける。沸いたら、3を生地側を下にして入れ、たれをからませて引き上げ、粉山椒をふって一口大に切って器に盛る。
「蓮餅の松前揚げ」(写真右)
【材料(2人分)】・蓮餅の生地 100g
・白板昆布(7cm×10cm) 2枚
・揚げ油 適量
【作り方】1.白板昆布に蓮餅の生地を7〜8mm厚さに均一に塗る。生地がつかないように濡らした包丁で縦に2つ、横に3つに切り6等分する。
2.フライパンに揚げ油を入れ、170℃に熱して1を入れる。生地を塗った側が濃いきつね色になるように2〜3分揚げ、返して裏も1分ほど揚げたら、油から引き上げて器に盛る。
私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。