「赤坂」の魅力をたずねて 第4回(全9回) 壮麗な迎賓館赤坂離宮、緑に囲まれた神社仏閣などの歴史的建造物と、ビジネス街や賑わいを見せる繁華街が同居し、一流ホテルが建ち並ぶなか路地裏に入ると個性的な飲食店が現れる。赤坂という街は、時間により、場所により、さまざまな表情を見せてくれます。港区赤坂・元赤坂を中心に、周辺エリアも含めてこの街が持つ多面的な魅力をご紹介します。
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赤坂とともにある「とらや」の匠の美
室町時代後期に京都で創業した「とらや」は御所の御用を務めたことから、明治の東京遷都に伴い、京都の店はそのままに天皇家に従って東京に進出。この地で150年の歴史を歩んできました。
季節の羊羹と“夜の梅”
毎年「色目(ラインナップ)の検討」が行われ、羊羹も季節に合わせて作られる。奥から夏に販売される「水の宿」、秋の「新更科」、とらやの羊羹を代表する「夜の梅」、来年の干支であるねずみを意匠にした「春陽(しゅんよう)ようの子(ね)」(11月下旬から販売)、春の「雲井の桜」。干支羊羹は毎年、社内公募で選ばれる。金彩・銀彩菊型皿 有田焼/陶香堂とらやの500年に及ぶ歴史のなかで作られてきた菓子の多くは各時代の菓子見本帳に残されています。菓銘と菓子の意匠は店の宝として大切に守られてきたのです。
なかでも1918年の菓子見本帳は棹物、数物、型物で6冊もあり、バイブルとして現在も毎年のラインナップの検討などに活用されています。
江戸時代の「白羊羹」
江戸時代の菓子見本帳には、縁起のよい形とされる洲浜(すはま)形の羊羹が描かれている。当時はこうした形も広く作られていた。“とらや”と聞いてまず思い浮かぶのは、やはり羊羹。「夜の梅」はその代表格です。羊羹の切り口のあずきの粒が、夜の闇に仄白く咲く梅の花を思わせることから名づけられました。今年はその「夜の梅」が誕生して200年という節目の年でもあります。
月の満ち欠けを表現した「月の眺(ながめ)」
職人が提案し、三日月から満月へと移ろいゆく月の姿を1棹のなかに表現した、高度な技術を要する大形羊羹。とらやでは、時代に応じて新しい羊羹の形も生み出してきました。羊羹をもっと手軽に食べてもらえるようにと小形羊羹が創案されたのは1930年のこと。
スカーフのような「カレ ド 羊羹」
2016年にifs未来研究所とのコラボレーションにより誕生した。厚さ3ミリ、20センチ四方で、ラム風味(左)とバニラ風味の2種。そして、「見た目も味も今までの羊羹とは違うものを作りたい」というチャレンジ精神から、2016年に生まれたのはスカーフのような「カレ ド 羊羹」です。
17代店主 黒川光博さん
1943年、東京都生まれ。学習院大学卒業。銀行勤務を経て1969年、虎屋に入社。1991年、代表取締役社長に就任、虎屋17代目となる。「羊羹はとらやの主力選手」という黒川光博社長が次に目指すのは「シーンを想定した羊羹」。例えば災害時の保存食として、またスポーツシーンでの手軽なエネルギー補給などにも、羊羹の新たな展開が始まっています。
羊羹の歴史を通観
地下1階「虎屋 赤坂ギャラリー」において『再開御礼!“虎屋文庫の羊羹・YOKAN”』展が開催されます。貴重な史料も多数展示。展示予定の、1695年の菓子見本帳に見られる羊羹、羊羹作りの技術の粋を集めた創作羊羹を特別にご紹介します(いずれも非売品)。
期間/2019年11月1日~12月10日(11月6日を除く)
時間/10時~17時
入場料/無料
※毎週月曜および11月9日(土)、11月23日(土・祝)10時30分より展示解説。予約不要。