不朽の名作をアップデートし2021年版として上演
「エピソードの数を減らして戯曲を刈り込んだことで、メインテーマみたいなものが、よりはっきりした気がします。『平家物語』に詳しくないかたにも、わかりやすくなっていると思いますよ」
そう話すのは、演出も手がけるなど幅広く活躍する狂言師の野村萬斎さん。自身が芸術監督を務める世田谷パブリックシアターで2017年に演出・出演し、数々の演劇賞に輝いた木下順二作『子午線の祀り』を、新たな演出で上演する。
『平家物語』が題材の本作品は、多数の俳優による原文の群読を随所に用いつつ、源平合戦を壮大なスケールで描いた不朽の名作。今回は感染症のリスクを考慮して、出演者の数を減らし、上演時間を短縮。作品が持つ宇宙観の中に、戦に臨む人間たちの葛藤を鮮やかに浮かび上がらせた前回公演をさらにアップデートし、ダイナミックかつテンポ感を増した21年版として届けるという。
「やはり大きな作品ですね。やればやるほど発見があります。コロナ禍で死を身近に感じ、自己と向き合うことが増えた昨今。戦と人間の在り方や無常観を描き、平 知盛に寄り添う“影身”も登場する『子午線の祀り』は、シェイクスピアの“芝居は世の中を映す鏡”という名言どおり、まさしく現代を映し出し、生きることの大切さや、どうして自分は今ここにいるのだろう?といったことを投げかけます。今上演する意味を感じますね」
2017年度公演より ©細野晋司実は、『子午線の祀り』と萬斎さんの縁は深い。父・万作さんが知盛を追い詰める源 義経を演じた、1979年の初演を観たのは13歳のとき。現代劇の俳優に交じって舞台に立つ父の姿は、萬斎さんの創作活動の原点となった。
父からバトンを受け取る形で、萬斎さんが平家軍を率いる知盛役で出演したのは、6演目の99年公演から。満を持し、自ら新たに演出したのが、8演目の17年公演だ。
「99年は、まだ狂言師として知盛にアプローチしていましたね。そこからシェイクスピア劇やギリシャ悲劇、現代劇を経験していくなかで、自ずと『子午線の祀り』を演出するための準備が整ってきた気がします。そもそも、『平家物語』にシェイクスピア劇やギリシャ悲劇の要素を落とし込み、宇宙の視点で書かれたのがこの作品。そこで木下先生がやろうとなさった、古典芸能と現代劇、西洋と東洋の融合は、まさに僕が取り組み続けてきたことでもありますから」