2010年、連作短篇集『海炭市叙景(かいたんしじょけい)』の映画化を機に再評価され、静かなブームが続いている――そんな佐藤泰志の小説の、4作目の映画化となる三宅 唱監督の『きみの鳥はうたえる』。
柄本 佑さん演じる“僕”と、共同生活を送る静雄(染谷将太さん)、そして僕と同じ書店で働く佐知子(石橋静河さん)の、何気ない日常から滲み出る生の輝きを描いた青春映画です。
「あの現場も、完成した作品も、僕にとって一生の宝物です。この映画は、関わった全員が自分たちみんなのものと思っているはずです」。
函館での撮影を振り返って柄本さんが語る、監督、共演者、スタッフ全員の、阿吽の呼吸でつくられた幸福な映画の幸福な理由について伺いました。
今回、取材が行われたのは都内のダーツ&ビリヤード・バー。“僕”と静雄と佐知子の3人が、ビリヤードやダーツをするシーンを彷彿させる。 ――『きみの鳥はうたえる』、“僕”と佐知子と静雄の関係を羨ましく思いながら、映画を観ていました。
三宅監督は、僕たち3人に楽しんでいてほしかったようなので、そういってもらえると嬉しいですね。今回、“僕”という名前のない役を演じたんですけど、じゃあ“僕”って何だろうって、脚本を読みながら考えるなかで見えてきたのが三宅さんのシルエットだったので、そこから僕という人物を掴んでいきました。衣装合わせで最初に決めたのは自前のキャップです。監督も僕も、いつもキャップを被っているので、その延長で、僕=キャップというイメージがあったのかもしれません。あれが一種のシンボルという感じで。髪も、本当は短くするつもりだったんですけど、たまたま撮影の頃、三宅さんの髪が長かったんですよ。それで僕が「髪、長いままで行こうと思うんですけど」といって切るのをやめたんです。衣装は僕の私服が大半で、三宅さんのズボンもはいたりしていました。
――“僕”と柄本さんと三宅監督が重なっている、そんな感じですね。
脚本を読んで、これは原作を血肉とした三宅唱版恋愛映画だと思ったんです。映画は、原作では東京だった舞台を函館に移していますけど、三宅さんは、原作が描こうとしていることしか脚本に書いていないし、三宅さんの、佐藤泰志さんに対するリスペクトも感じていました。“僕”については海、山、空みたいに、気づけばそこにある自然というか、常にまっすぐ立っている存在というイメージがあって。それは根拠のないまっすぐさで、最後、それが崩れて人間として終わるんですけど(笑)。