今、世界を魅了する輝きの舞台「華麗なる日本のバレエ新時代へ」 第2回(全6回) 「イタリアで生まれ、フランスで育ち、ロシアで大人になった」といわれる舞踊芸術、バレエ。発祥から数百年の時を経て、今、日本は世界有数の「バレエ大国」といわれています。世界の頂点に立つ日本人ダンサーの先駆けとして時代を拓いたレジェンド、吉田 都さん。海外の名門カンパニーでバレエの“現在(いま)”を舞い、スターダムを駆け上がる若き日本人バレリーナたち。それぞれの場所で芸術の花を咲かせる美しき5人の姿をお届けします。
前回の記事はこちら>> 世界中が未曽有の事態に陥る中、新国立劇場舞踊芸術監督という新たなステージを歩み始めた吉田 都さん。「『本物の舞台』をお見せすることが、私たちの使命。本当に一回一回の公演が勝負です」。そう強く語る吉田さんに、これからの挑戦と夢、そして日本バレエ界の未来へのメッセージを伺いました。
前回の記事はこちら>>「これぞバレエ」というものを示せるバレエ団であるために
バレエ教師たちとのミーティング、次の公演のキャスティング、各種会議への出席、日々判断を求められる案件の山。メディアからの取材も後を絶たず、吉田さんの毎日はじつに多忙です。
それでも時間の許す限り足を運ぶ場所は、やはりダンサーたちの稽古場。「完璧」には永遠に手が届かないのがバレエであることを誰よりも知っているからこそ、「注意するのはいつも『しっかりプリエして』といった基礎的なことなんですよ」と笑います。
『白鳥の湖』リハーサルより。米沢 唯さん(写真上)、小野絢子さん(写真下)といったプリンシパルたちの華をさらに大きく開花させるいっぽうで、新しいキャストや若手を積極的に起用するのも吉田監督采配の特徴。「そのダンサーに相応の実力があるならば、年齢やランクに関係なくチャレンジの機会を与えたい。なぜなら私自身も若い頃、そうして育てていただいたので。方向性を示したら、あとは信じて任せること。それを芸術監督として強く意識しています」と吉田さん。木村優里さん、渡邊峻郁さん。撮影/鹿摩隆司「これから特に強化したいのは、コンテンポラリーなど多種多様なダンススタイルへの対応力です。今はどんなジャンルであろうと瞬時に踊りこなすのが当たり前の時代。でも海外に比べて公演数がどうしても少ない日本のダンサーは、新しいダンスを『パッと習ってすぐ踊る』という訓練ができていません。コロナが落ち着いたら、海外から一流の振付家を招いてレパートリーを充実させたい。そのためにもまず、さまざまなワークショップなどを行って、ダンサーたちの瞬発的な対応力を鍛えなくては」
課題を鋭く見抜き、解決・改善には何が必要かを具体的に提示する。芸術監督に就任してまだ2年と経たないのに、なぜこれほど明確なヴィジョンを描けるのでしょうか。
「それは、私自身が一から歩んできたからだと思います。十代の終わりに英国のバレエ団に入り、最初は群舞の一番下から始まって、ソロをいただき、主役に選ばれて......と、本当に一歩ずつでしたから。ダンサーとして経験してきたことのすべてが、今、芸術監督として選ぶべき道をクリアにしてくれています」
これからのバレエ界を担うリーダーとして。吉田 都さんには揺るぎない信念があります。
「私たちの根幹は、『これぞバレエ』という本物の舞台を作ること。そして観に来てくださったかたの期待を、絶対に裏切らないことです。たった一回の公演でもお客さまをがっかりさせてしまったら、そのかたはもう二度と劇場には足を運んでくださらない。本当に一回一回の公演が、私たちの勝負です」
新国立劇場バレエ団では、ダンサーたちが自ら振り付けたコンテンポラリーダンス作品を発表する企画「DANCE to the Future」を実施している。
『コロンバイン』(「DANCE to the Future:2021 Selection」より)。『Passacaglia』(「DANCE to the Future:2021 Selection」より)。撮影/瀬戸秀美
芸術監督のある1日
午前中・自宅でトレーニング
12時・『ニューイヤー・バレエ』リハーサル
13時・先々の公演のビジュアルチェック、原稿確認など
14時・『くるみ割り人形』リハーサル
15時・『エデュケーショナル・プログラム』リハーサル
18時・海外スタッフとオンラインミーティング
20時・書類整理
21時・新国立劇場を退勤