藤田嗣治の作品だけを展示する個人美術館として、日本のみならず世界で初めてオープンした軽井沢安東美術館。その展示室はコレクターが自邸に藤田作品を飾っていた雰囲気を再現したもので、いわば個人の邸宅に招かれて絵画を鑑賞するようなコンセプトで建てられた美術館です。エントランスに足を踏み入れれば、そこは安東邸。藤田作品を心ゆくまで愛でることができる軽井沢の新名所へ――。
正面を向く猫1930年 油彩・キャンバス 33.0×24.0cm ©Foundation Foujita/ADAGP,Paris&JASPAR,Tokyo,2022 E4903至高の安東コレクションその始まりは“かわいい”だった
『しがない職業と少ない稼ぎ』より 自画像アルベール・フルニエ、ギイ・ドルナン著 ピエール・ド・タルタス 1960年刊行 ©Foundation Foujita/ADAGP,Paris&JASPAR,Tokyo,2022 E4903藤田嗣治(ふじた・つぐはる)1886(明治19)年、東京市牛込区生まれ。日本を代表する画家。「猫」「少女」そして「乳白色の裸婦」などの画題でつとに知られる。二度の世界大戦など激動の時代に翻弄され波瀾に満ちた生涯を送った。1968(昭和43)年、病没。軽井沢で偶然出会った藤田嗣治の版画。そこに描かれた猫に対してコレクターの安東泰志さんは、えもいわれぬシンパシーを感じたそうです。一枚の作品との出会いが約180点の一大コレクションへとつながっていきました。
最初は猫、少女、そして猫を抱いた少女といった“かわいい”絵の蒐集に情熱を注ぎます。美術品としての評価でいえば、「乳白色の時代」と呼ばれる1920年代の裸婦の方が、猫や少女の絵(藤田晩年の作品群)よりもずっと高いのです。
しかし安東さんにとって藤田の絵は、手元に置いて愛でていたいもの。経営者として、日々厳しい金融の世界に身を投じている安東さんにとって、夫妻で藤田の“かわいい”絵たちと向き合う時間は、この上ない癒やしでした。
こうして、安東邸の壁面には一枚また一枚と、 藤田の作品が掛けられていったのです。
安東コレクションの中核をなす赤い展示室。この部屋を彩るのは「猫」「少女」たち。蒐集は“かわいい”から始まった、とコレクターの安東さんは語る。バカラのシャンデリアに、座り心地のよいソファがしつらえられたこの展示室は、さながら安東邸のリビング。心が“かわいい”で満たされていく。