未来の医療 進歩する生命科学や医療技術。わたしたちはどんな医療のある未来を生きるのでしょうか。「未来を創る専門家」から、最新の研究について伺います。
前回の記事はこちら>> 座ったままVR(バーチャルリアリティ)のゲームを楽しみながら、病院や家庭でリハビリを
VRを使うゲームをするだけで歩行機能や認知機能が回復していく......。そんなリハビリテーションが実現しつつあります。
ゲームの開発者である循環器内科医、mediVR 代表取締役社長の原 正彦さんに開発の動機や製品について聞きました。
〔未来を創ろうとしている人〕原 正彦(はら まさひこ)さんmediVR 代表取締役社長
島根大学客員教授
医学博士
1981年兵庫県宝塚市生まれ。2005年島根大学医学部卒業。神戸赤十字病院、大阪労災病院で研修後、大阪大学医学部附属病院循環器内科に勤務。15年、同院未来医療開発部特任研究員を経て、16年にmediVRを設立。現在、島根大学客員教授も務める。循環器内科専門医、認定内科医、日本医師会認定産業医。座ってボールを手で受ける単純なゲーム
2018年の経済産業省主催のジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストでグランプリを受賞した「mediVRカグラ」。
バーチャルリアリティ(VR)を用いるゲームの反復を通じて、主に歩行障害のある人の姿勢のバランスの調整力や認知能力を高めていくことを目指しています。
ヘッドディスプレイは700グラムとやや重めだが、重さを感じにくくするために市販品を改良し、つけ心地のよさを追求している。mediVR:https://www.medivr.jp利用者は椅子に座り、ヘッドディスプレイをつけて、両手のコントローラーで目の前に落ちてくる赤のボールを右手で、青のボールを左手で受けるといった単純な作業を繰り返します。
うまくできたときにはコントローラーが振動し、ピコピコと音が鳴って、成功体験を味わえます。
病院でのリハビリ風景。コントローラーを両手に持ち、片方ずつ腕を伸ばすと、腕の長さを自動的に測定する。その後、リハビリする人の状態に合わせて、ゲームの中で物が落下する速度や範囲、背景の有無、時間などを設定する(病院では医師や理学療法士が設定する。家庭では自分や家族が設定できる)。ボールの代わりに野菜や果物が落ちるゲーム、印籠が表示される水戸黄門ゲームもあります。
野菜ゲーム、果物ゲーム、水戸黄門ゲームから好きなゲームを選ぶ(写真は野菜ゲームの画面)mediVRカグラは、利用者の腕の長さ、動かせる範囲を自動で計測し、目標物が1秒間に落ちる距離(=落下速度)や方向を利用者ごとに調整できます。
また、片まひのある人でも使えるように落下速度や方向を左右で異なる設定にできます。
認知症などで注意力が落ちている人には、背景を消し、ゆっくりとボールを落とすことでボールに意識を集中させます。
記録はmediVR社のサーバーに残され、プリントアウトも可能です。続ける意欲をかき立てられるよう、ゲームをした日にはカレンダーに花丸がつく機能もあります。