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iPS細胞の医療への応用で「未来の医療」はどう変わる?

2020.11.13

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未来の医療 進歩する生命科学や医療技術。わたしたちはどんな医療のある未来を生きるのでしょうか。「未来を創る専門家」から、最新の研究について伺います。前回の記事はこちら>>

iPS細胞を目的とする細胞に変え、患部に移植する細胞治療


iPS細胞の医療応用のうち、前回は患者の細胞から作製したiPS細胞を分化させ、それを病態の研究や治療薬の開発に用いることを紹介しました。

今回はiPS細胞から分化させた細胞による治療について、パーキンソン病の治験を手がける京都大学iPS細胞研究所副所長の髙橋 淳さんに聞きました。

〔未来を創ろうとしている人〕髙橋 淳(たかはし じゅん)さん


髙橋 淳さん

京都大学iPS細胞研究所
統括副所長
同 教授(臨床応用研究部門 神経再生研究分野)
1986年京都大学医学部卒業後、北野病院脳神経外科医員などを経て、93年同大学大学院医学研究科博士課程修了。同大学医学部附属病院脳神経外科に入局し、95年米国ソーク研究所に留学、97年に京大病院に復職。2007年京都大学再生医科学研究所生体修復応用分野准教授、08年同大学iPS細胞研究センター准教授を兼任。12年同大学iPS細胞研究所教授。

病気などで失われた臓器の構造や機能を細胞で補う


iPS細胞(induced pluripotent stemcell、人工多能性幹細胞)には、あらゆる細胞に変化できる能力があります。

皮膚や血液の細胞に4つの遺伝子を導入することで、受精卵が少し分裂した状態(受精胚)に人工的に戻した(リプログラミング=細胞の運命のプログラムを書き換えた)細胞になるのです。

さらに、iPS細胞に化学物質を加えると、心臓の筋肉、神経、軟骨などさまざまな細胞に分化させることができます。

2006年に京都大学の山中伸弥教授がマウスの皮膚の細胞からiPS細胞を作製して以降、世界中で研究が行われています。

iPS細胞の医療応用として注目されているのが細胞治療です。細胞治療は再生医療の一種で、病気やケガなどによって失われた臓器の構造や機能の回復を目的としています。

iPS細胞がもつ多能性を利用して、例えば、血糖値を調整する細胞(膵臓のβ細胞)を作って、糖尿病患者に移植する、加齢やケガですり減った関節に軟骨細胞を移植する、などが期待されます。

iPS細胞を細胞治療に用いる臨床研究は、目の網膜の病気で失明の原因となる加齢黄斑変性に対し、世界で最初に2014年に行われました。患者自身の皮膚から作製したiPS細胞を網膜色素上皮細胞に分化させ、それを網膜に移植したのです。

その後、健康な人の血液から作製したiPS細胞を用いた同様の研究も始まり、これまでに5名の患者に移植され、現在も経過観察中です。

目の病気の研究が最初の臨床研究として実現しやすかったのは、iPS細胞由来のシートが網膜色素上皮細胞のみからできており、移植に必要な細胞数が少ないため、比較的作製しやすい、内臓などと比べると観察が容易である、また、網膜色素上皮細胞は腫瘍になることがほとんどない、さらには加齢黄斑変性を根本的に治す方法がないといったことが理由です。

ほかにも、今年、大阪大学でiPS細胞由来の心筋細胞のシートを心不全患者に移植する治験(新しい治療法の承認を目指す臨床試験)が始まりました。

また、近いうちに慶應義塾大学や京都大学でiPS細胞由来の心筋細胞を心臓に移植する臨床研究が行われる予定です。
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