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我らが応援団長、松岡修造さん心のコラム第12回「僕が忘れられない、日本代表選手たちの名言」

2020.02.07

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東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会まで半年を切り、テレビや新聞では連日、活躍が期待される日本代表選手たちの動向やコメントが伝えられています。今回は、長年にわたりオリンピックを取材している松岡さんに、記憶に残る代表選手たちの名言を伺いました。

「自分なんて弱い」。北島康介さんが弱音を吐いた日


「記憶に残るオリンピック選手の名言」と聞いて、多くの方が思い浮かべるのは、競泳の北島康介さんではないでしょうか。2004年アテネオリンピックと2008年北京オリンピックで100m、200m平泳ぎの金メダルを獲得。競泳で2種目2連覇を達成した日本人初にして、現在まで唯一の選手です。400mメドレーリレーにも3大会連続で出場し、メダルを獲っています。

北島康介選手2004年、アテネオリンピック競泳男子200m平泳ぎ決勝。ゴール後のガッツポーズも印象的でした。写真/アフロスポーツ

北島さんはオリンピックのたび、レース後のコメントも大きな話題になりました。アテネ大会の「チョー気持ちいい」、北京大会の「なんもいえねぇ」。どちらも100m平泳ぎで優勝した直後のインタビューで北島さんが発した言葉ですが、「チョー気持ちいい」はその年の新語・流行語大賞の年間大賞にも選ばれました。


でも、僕が北島さんの言葉で一番印象に残っているのは、その2つではありません。インタビューで聞いた「自分なんて弱い」という、北島さんのイメージとはかけ離れた言葉です。そのとき、「修造さん、僕なんか取材しないで、他の選手を取材した方がいいです」とも言いました。アテネ大会が終わって、まだ1年も経っていないときで、僕は大きな衝撃を受けたのを今でもはっきり覚えています。

オリンピック2大会連続2種目制覇という偉業を達成した北島さんは強靭なメンタルの持ち主というイメージが強いかもしれません。ただ、北島さんは国内外の試合含め、ずっと勝ち続けていたわけではありません。アテネ大会翌年の2005年4月、北島さんは日本選手権の200m平泳ぎで3位に沈み、同年に開催された世界選手権には、金メダルに輝いたこの種目で出場することができませんでした。

僕がお話を伺ったその頃の北島さんは、「自分は弱い人間」と自ら言うことで、その弱さを隠すことなくさらけ出し、受け入れていました。受け入れることで前に進める。北島さんも、その後、苦しい時期を経て更に強くなり、北京大会では再び素晴らしい活躍を見せてくれました。自分の弱さと真摯に向き合える人こそが、真の意味で強いのだと感じた出来事です。

「ここには愛情がある」。松田丈志さんの思い


北島さんと同じく競泳の日本代表として活躍した松田丈志さんは、アテネからリオまで4大会連続でオリンピックに出場。200mバタフライで銅メダルを2個、リレー種目で2個のメダルを獲得しています。2012年ロンドンオリンピックの400mメドレーリレーで日本男子史上初の銀メダルを獲得した際、「康介さんを手ぶらで帰らせるわけにはいかない」と話した姿を記憶している人も少なくないと思います。

松田丈志選手

2012年ロンドンオリンピック競泳男子400mメドレーリレー決勝。熱い信頼で結ばれたチームの勝利に日本中が歓喜。写真/YUTAKA/アフロスポーツ

丈志さんがオリンピックに出場したことで注目されたのが、彼の練習環境でした。地元・宮崎県延岡市の「東海(とうみ)スイミングクラブ」で4歳から水泳を始め、久世由美子コーチ指導のもと、みるみる力をつけていった丈志さん。

彼が練習していたのは、通称「ビニールハウスプール」。クラブが借りていた東海中学校の屋外プールを、天候にかかわらず練習できるようにビニールで覆ったものでした。このビニールハウスは、クラブに通う子どもたちの親御さんとコーチの手づくりです。

僕は一度、すでにオリンピック出場を果たしていた丈志さんの取材で、そのプールで泳がせてもらったことがあるのですが、25m泳いでいる途中で水温が変わったのに驚きました。ビニールがところどころ破れていたからではないかと思います。また、中学校のプールですから水深が浅い。正直、オリンピックでメダルを目指す選手の練習環境ではないと思いました。

そこで僕は丈志さんに、「失礼かもしれませんが、もっといい環境で練習をしたほうがいいんじゃないですか」とお聞きしたところ、丈志さんの返事はこうでした。「いや、修造さん、ここにはほかにはないものがあるんです。愛情があるんです」。僕はもう、その言葉に胸を打たれました!

僕らは「条件のいい環境や優秀なコーチのもとで練習すれば絶対強くなる」と考えがちですが、そんな単純なことではないんですね。大切なのはそこに愛情、信頼があること。丈志さんは久世先生がどんなにきつい練習を課しても、いつも「はい!」と大きな声で返事をして取り組んでいました。残念ながら、ビニールハウスプールは2017年になくなってしまったそうですが、当時の丈志さんにとっては最高の練習環境だったのだと思います。

丈志さんはまた、キャプテンとしてみんなから愛された人ですが、そこには久世さんが常々おっしゃっていた「どんなに強くなっても勘違いするな」という教えが生きていると感じます。今は世界水泳選手権の仕事でご一緒させていただいていますが、僕から見た丈志さんは、男の中の男! 尊敬しています。
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