対談の最後、「身じろぎ一つされなかったのは体に負担のない姿勢をご存じだからですね!」と松岡さん。室伏さんは笑って、「大先輩に失礼な態度は取れません」と返していました。フェアな戦いだからこそスポーツは感動を呼ぶ
松岡 先程ドーピング防止の話が出ましたが、室伏さんはフェアプレーの精神を誰よりも大事にされているかただと僕は思っています。長官になるまで、日本と世界両方のアンチドーピング機構のアスリート委員もされていましたね。
室伏 はい。現在もアンチドーピングの国際的なセミナーなどに参加しています。
松岡 僕は(テニスの)ジュニア選手の強化合宿で、必ずアンチドーピング機構のかたを招いて話をしていただいているんです。低年齢で学ぶことが大事だと思うので。
室伏 おっしゃるとおりです。なぜスポーツの世界にだけドーピング検査があるかというと、生身でフェアに、インチキをしないで競うからこそ、みんなが夢中になり、感動するからだと思うんです。残念ながら、日本でも禁止薬物を飲み物に混入する事件がありました。同じようなことが繰り返されないよう、自分の飲み物は自分でしっかり管理するといったことを、選手たちに教えなければなりません。
松岡 同感です。これからも若い選手たちへの教育を続けていきます。
仕事の根底にあるのは恩返しの気持ち
松岡 スポーツディレクターとして迎えるはずだった東京2020大会が延期になったとき、室伏さんはどのように思われましたか。
室伏 そうですね。この大会はIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長もおっしゃったように、史上最高の大会になることが保証されていたと思うんです。準備も順調で、半年前の時点ですぐにでも開催できる状態でしたから。
松岡 はい、そうでした。
室伏 それが昨年2020年2月にコロナ禍で情勢が一変し、私は何より選手がかわいそうでなりません。多くの大会が延期になり、トレーニングも思うようにできず、オリンピックを断念して引退した選手もいます。競技人生のプランが変わってしまった。
松岡 本当にそうですね。
室伏 我々は今、東京2020大会に向けて、各種大会の開催を支援するなどしていますが、選手たちが何を必要としているか、もっと聞かなければと思っています。私はスポーツに恩返しをする機会をいただいたと思って、スポーツディレクターもスポーツ庁長官も受けさせていただきました。関係団体のみなさんと一緒に、東京2020大会の成功に向けて精一杯力を尽くすつもりです。