4.日本でとれる食用アワビの種類は?
日本でとれる主なアワビは、「クロアワビ」「メガイアワビ」「マダカアワビ」「エゾアワビ」などです。北海道から東北にかけて見られるエゾアワビは、クロアワビの冷水域における亜種で、こちらの旬は秋から冬にかけて。4種をアワビとして総称しています。雄雌の見分け方は肝やウロと呼ばれる生殖腺の色を見れば一目瞭然。雌は緑色、雄はクリーム色をしています。
アワビによく似た小型の「トコブシ」は同じくミミガイ科であっても、アワビの子どもではなく、まったく別の貝です。
5.熨斗の起源、縁起物の象徴
アワビの殻はすでに縄文時代の遺跡に見られます。神話にも伊勢神宮の内宮を創建したとされる倭姫命(やまとひめのみこと)が国崎(くざき)を訪れた際に海女から差し出されたアワビのおいしさに感動し、毎年、伊勢神宮に献上するよう命じたという話が残っています。
海に深く潜ってとるアワビは希少で贅沢なもの。古来、干しアワビは、長寿の縁起物として神様のお供え物に用いられてきました。奈良時代には富裕な豪族が最上の贈り物として天皇家に献上しました。鎌倉時代になると、アワビの身を薄くむいて延ばし、干して乾燥させた「熨斗アワビ」が登場します。アイロンのような火熨斗で平たく延ばせば、一つのアワビから大きな熨斗アワビができます。それを細く裂いて、いくつものお供え物に使ったのです。
現在でもお祝いや贈り物に添える熨斗紙や熨斗袋は、この風習に由来しています。熨斗の起源がアワビであることから、海産物を贈る際だけには、熨斗はタブー。アワビと海産物が重なってしまうためです。
6.何を食べて育つ?
アワビの餌は主にカジメなどの海藻です。アワビは外海の岩礁に足の筋肉でしっかりとくっついていて、流れてくる海藻を伸ばした触角で感知して捕食します。最も浅い場所にいるのがクロアワビ、中間的な深さにはメガイアワビ、マダカアワビは15メートル以上の深場に生息しています。
日本各地、気候や海流によって海藻の種類もさまざま。そうした環境がアワビの形状だけでなく、うまみや香りに大きく影響します。産地による風味の違いは餌となる海藻の違い、そこが料理人にとっての魅力であり、腕のふるいどころともいえます。
7.万葉集に詠まれたアワビ
日本人とアワビのかかわりは深く、美味なるアワビは、人々に愛され多くの歌に詠まれています。『万葉集』にも「伊勢のあまの朝な夕なに潜か づくとふあはびの貝の片思(かたもひ)にして」や、「手に取るがからに忘るとあまの言ひし恋忘れ貝言(こと)にしありけり」など、片方にしか殻がないアワビに切ない片恋や片思いを重ねた歌があります。
私たちがよく耳にすることわざ、「磯のアワビの片思い」もまた、同じ理由から。本来は巻貝であるアワビにとって、この見当違いの片思いのイメージは少しばかり迷惑なことかもしれません。
〔特集〕名産地・名店で味わう、家庭で楽しむ 究極のアワビ三昧
イラスト/中川 学 取材・文/瀬川 慧
『家庭画報』2021年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。