イベントは「代官⼭ 蔦屋書店」3号館2階「代官⼭Session」にて行われ、会場とオンラインの同時開催のスタイルとなった。落合博満さんの言葉「自分が一番苦手なことを続けなさい」
司会者より、強く印象に残ったエピソードに落合博満さんからの「自分が一番苦手なことを続けなさい。そうすれば勝てるようになる」という言葉を挙げられ、その時のことを問われると、服部さんは、「アマチュア時代は1試合1試合フォーカスすることは得意でした。しかし、プロになると毎週のように試合があって、なかなか(1試合に)フォーカスし切れなかった。若気の至りで、『そのうち自分にも順番で優勝がまわってくるだろう』、と考えていたんです。ですが2位が続いて……なかなか勝てない自分に友人が落合監督と引き合わせてくれる機会をつくってくれて、その時に頂いた言葉です。今にして思えば、本当は自分でも気がついていたのだと思いますが、その言葉で自分自身の甘さを見つめ直すことができ、その3週間後に初優勝することができたんです」と当時を振り返りました。
鈴木さんは服部さんのそうした姿勢に注目。
「今回の本を読んで『聞く力』というか色々な人から聞いた話を『これは自分に必要なことかな』と思ってインプットする力がすごいと思いました。スポーツ選手で技術のすごい人はたくさんいますけど、Jリーガーなどでも10年後に残る選手って『聞く力』がすごいんですよ。服部さんの人の話を聞く姿勢は本当に凄いと思います」。
トップアスリート同士の話は、競技を超えて、スポーツとビジネスの垣根を超えて共通することが多いことに気づかせた。好転力を生み出すものとは?
アスリートのメンタルのコントロールについて問われると鈴木さんはこのように分析しました。
「水泳の場合はレースの前の準備の段階で8割くらい決まっています。試合本番ではまな板の上にのって堂々としているだけなんです。考える時間はゴルフに比べてありませんから準備が大事なんです。本番では『自分が一番強いんだ』くらいの積極的な気持ちで自信をもってやることが必要かなと思います」
そして服部さんは司会者からどうすれば好転する力を身につけられるのかを問われ、「何をするにしても最後は自分自身“覚悟”を持つことだと思っています。どれだけ本気でそこに向かい合えるのかだと思うのです。そういう姿勢を見せていくと周りの人も自然と応援したくなる、といういい意味での循環が生まれたりします。本気になってやっていく、つまり強い意志こそが、何があってもいい方向に向かわせてくれるのではないかなと思っています」。
その話を受けて鈴木さんも、「ゴルフは1試合16時間、シーズンも長い。そういうスポーツでは服部さんがこの本でも書かれている通り、ゴルフに対する思いとか、人を大事にしながら感謝の気持ちを持ち続けることで色々な人たちがバックアップしてくれる。そういう人間性を磨いていくことなのかなと思います。そういう力が好転力であり人生を良い方向に向かわせていくんだろうなと」と応答しました。
最後に、スポーツ健康医科学機構で機構長をしている鈴木さんに、スポーツと医学で社会科医大を解決していくということについて尋ねました。
「スポーツ庁でやっていたことをもっと自由な立場で追求していこうと思っています。スポーツはメダルの数でいろいろ決まるわけではなく、それ以外にも健康寿命をのばすことやスポーツで地域を元気にすることなどたくさんのいいことがあります。そういうことを皆さんと一緒に進めていこうと思っています。たとえばゴルフに関しても年配の方が(18ホールやれば)10キロくらい歩くわけですよね。それだけでも素晴らしいと思いますし、下手な人がやってもいいという雰囲気を作っていきたいですし、医学的なエビデンスもお見せしてスポーツをやる意義などを提供していきたいです」と熱い抱負を語りました。
「スポーツ界だけでなくビジネスマンの方にも読んでほしい内容」これが鈴木さんや当日の司会者が繰り返し口にしていたことです。コロナ禍でこのイベントもオンライン中心での開催となり、これまでの方法ではなかなか成立しなくなっている現在。状況は違えど、それぞれの場所でそれぞれ頑張る人たちに『好転力』で服部さんが披露した56のエピソードが、状況を打ち破る何かのヒントになるかもしれません。少し肌寒いなかで行われたイベントは、いつしか、軽い高揚感と共に終了していました。
服部 道⼦(はっとりみちこ)愛知県⽣まれ。1984年に⽇本⼥⼦アマチュアゴルフ選⼿権を当時史上最年少の15歳9か⽉で優勝。翌年にはUSGA(全⽶ゴルフ協会)の主催する全⽶⼥⼦アマチュアゴルフ選⼿権を当時史上最年少で優勝し、120 年以上続くUSGA の歴史で、タイトルを獲得した初の⽇本⼈となる。 ⾼校卒業後はアメリカ・テキサス⼤へ進学。NCAA リーグで10勝。⽂武両道の学⽣に贈られる「マリリン・スミス賞」を受賞した。 91年にテキサス⼤国際経営学部を卒業後、帰国しプロ転向。98年に年間5勝を挙げて賞⾦⼥王に輝き、国内外ともに活躍した。国内メジャー3勝を含む通算18勝。現在は⼀児の⺟として奮闘する傍ら、2020 東京オリンピックゴルフ⽇本代表⼥⼦コーチとして後進を育成。鈴⽊ ⼤地(すずきだいち)1967年、千葉県習志野市出⾝、54歳。 ⼩学校2年⽣で⽔泳を始め、⾼校進学後、個⼈メドレーから背泳に転向。 記憶に残るソウル五輪では得意の「バサロスタート」を駆使し、100M 背泳で⾦メダルを獲得。 当時、⽇本競泳界では 16年ぶりの⾦メダル獲得の快挙となり、⽇本の⽔泳を⼀気にメジャースポーツに 引き上げた。2013年に連盟史上最年少の46歳で⽇本⽔泳連盟会⻑に就任、 2015年から 2020年まで、初代スポーツ庁⻑官を務め、アスリートへの⽀援強化やスニーカー通勤を促す など、幅広い政策に取り組み、現在は、国際⽔泳連盟理事、順天堂⼤学教授、同⼤スポーツ健康医科学 推進機構機構⻑として、後進の育成に⼒を注いでいる。・
服部道子さんインタビュー困難を克服する力とは?>> 服部道子著『好転力』(世界文化社刊)
文/大森春樹 撮影/武蔵俊介