パンデミックの時代が求める音楽 ワルツの熱情 第3回(全12回) 明と暗が表裏一体となったワルツの底知れない魅力を訪ねます。
前回の記事はこちら>> ワルツの謎 人はなぜワルツに魅せられるのか
ニューイヤーコンサートが世界的イベントになった理由(わけ)
篠崎史紀(しのざき・ふみのり)さんNHK交響楽団第1コンサートマスター。1981年ウィーン市立音楽院に入学。帰国後、群馬交響楽団、読売日本交響楽団のコンサートマスターを経て、97年NHK交響楽団のコンサートマスターに就任。2000年より現職。華やかにワルツが奏でられるニューイヤーコンサート。始まったのは1939年、オーストリアにとっては暗黒の時代でした。
ワルツは母国のアイデンティティを示すのにふさわしい曲でしたが、同時にナチに悪用もされました。政治利用された曲は長らく憂き目にあうのが通例ですが、ワルツはそれさえ超えて、新年の祝賀的気分とともに世界中で愛され続けています。
なぜか? まずオーストリアには音楽は人智を超えたものという考え方があります。それにワルツを聴くと、皆笑顔になれますよね。魔法の音なんです。
また1月1日はウィーン国立歌劇場管弦楽団の休日のため、その有志が集まるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会ができること、衛星中継の開始、世界的指揮者の客演などが相乗効果を生みました。
毎年ニューイヤーコンサートが開催されるウィーン楽友協会大ホール(黄金のホール)。ウィーン・フィル舞踏会では座席が取り払われ、燕尾服と純白のドレスをまとった若き男女がワルツを踊る社交場へと変身する。© Wiener Philharmoniker / Dieter Naglコンサートを華やかに演出したのは元コンサートマスターのボスコフスキー。シュトラウス2世のように指揮しながらヴァイオリンを弾きました。これがワルツ本来の形で、私もそれに倣うことがあります。