漢方の知恵と養生ですこやかに 第5回(02) 自然界の陽気が力強く上昇し、山々も野原も緑に染まる5月。人の「気」も上へ上へと昇り、心のバランスが崩れがちな季節でもあります。「五月病かな?」と思ったら、公園や野山に出かけたり、ゆったりとティータイムを。新緑や新茶の香りが「気」を巡らせ、私たちをリラックスさせてくれます。
前回の記事はこちら>> 〔解説してくださるかた〕横浜薬科大学客員教授・薬学博士 漢方平和堂薬局店主 根本幸夫先生
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人の「気」も上昇し、不安定に。新緑が癒やす「五月病」>>リラックス効果を持つ「緑」。森林浴と新茶の香りで心の安定を
森林浴や新茶の香りは、心を癒やす“精神安定剤”
色彩心理学的に、緑色には心身の疲れを癒やして緊張を和らげ、気持ちを穏やかにするリラックス効果があるとされます。また、新緑の香りには殺菌・防腐・鎮静作用のある化学成分が含まれています。
中国医学的にいうと、頭に上ったままの「気」を体内に巡らせて落ち着かせる効果があるのです。森林や公園に出かけて緑の色に触れ、香りを浴びるだけで、一種の精神安定剤のような“薬”になるといえます。
5月の香りといえば新茶。気持ちが不安定で落ち着かないときは興奮作用のあるコーヒーは控え、新茶の緑茶か、カモミール(心を鎮める作用がある)やハッカ(もやもやを解消する作用がある)などのハーブティーをいただくとよいでしょう。
緑茶は一方で、坐禅の際の眠気覚ましにも飲まれるように、精神が停滞したときの気つけ薬のような効果もあります。夜遅くにいただくときは、リラックス効果のある番茶やほうじ茶のほうが無難です。
「気」の停滞する場所によって異なる漢方薬処方
気を巡らせ精神状態を安定させる食材にしそがあります。刻んだしそとほぐした梅干しを和えるだけの「梅しそ」や、相性のよい味噌と合わせた「しそ味噌」(次ページ参照)などは食欲増進の効果もあります。
少量の甘味は気持ちを穏やかにさせますが、食べすぎると「気」の上昇の抑えが利かなくなり心の乱れを助長します。また、菖蒲やヒノキの香りが入浴時のリラックス効果を高めることはよく知られています。
漢方薬は、「気」がどの場所でとどまっているかによって処方が異なります。胸の動悸があり、不安が強くてのぼせがある場合は加味逍遙散(かみしょうようさん)。みぞおちあたりで動悸がしてめまいを伴うときは苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)。のどのつまりがあるときは半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)などが主に用いられます。