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喪失の悲しみに寄り添う言葉の力「日常の言葉では表せない深い思いを僕たちは歌でわかり合っていた」

2022.06.09

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日記と手紙日記と手紙をもとにまとめた新刊『あの胸が岬のように遠かった』(新潮社)と永田和宏歌集『置行堀』(現代短歌社)。

状況を克明に伝える「日記」、思いを凝縮する「歌」


2019年、永田さんは河野さんの遺品整理で見つかった結婚前の7年間分、十数冊の日記と手紙をもとに青春を回顧する連載記事を執筆しはじめます(2022年、単行本『あの胸が岬のように遠かった』として上梓)。

「僕は本当に彼女にふさわしかったのだろうか」との不安が募り、答えを求めて日記を繙(ひもと)いたのです。


日記と手紙十数冊残されていた日記の一部(奥)と互いに送り合った約300通の手紙。

日々の出来事や考えを綴った散文の間に思いを凝縮した歌が挟まれる形式の日記は、思わぬ発見につながりました。

河野さんの代表作の一つ「たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか」がいつどのような状況で詠まれたのか明らかになったのです。

当時、もう一人の青年と永田さんの間で揺れ動き、身を裂かれる思いで悩み苦しんでいた河野さんはある日、自らを制御できなくなり、永田さんの胸を叩いて激しく泣き崩れます。その出来事を克明に記した1968年1月7日のページに、その歌はありました。

「そうか、あの歌は彼女が爆発した日の夜に作られたのか──。日記の中にそれを見つけたとき、歌の力強さが以前に増してくっきりと立ち上がってきたような気がしました。“背景がこうだからこう読める”という解釈の仕方はときに歌を痩せさせますが、背景を知ることで歌の奥行きや幅が広がる場合もあるのです」

河野さんの日記河野さんの日記、1967年10月14日のページには「永田さん、一目で好きになった」の文章も。

ところで例の「答え」は見つかったのでしょうか?

「あんなにも一途で人を愛することに真剣だった彼女が僕を選んだ──。それが答えじゃないかな」。
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