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喪失の悲しみに寄り添う言葉の力「日常の言葉では表せない深い思いを僕たちは歌でわかり合っていた」

2022.06.09

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今の自分を知っていてほしい。最近、彼女を詠む歌が増えた


永田さん河野さんが大好きだったコスモスが一面に咲いていた庭で。

広い庭が気に入って1998年に移り住んだ比叡山麓近くのご自宅。ご家族で河野さんを看取ったのもこの家でした。

一人暮らす永田さんは「何を見ても河野に結びついてしまう」と苦笑いし、最近また河野さんを詠む歌が増えたといいます。


「僕には、河野が見ていてくれるから大丈夫だという安心感が常にありました。お互いにそうだったと思います。僕たちは歌を詠むことで日常会話では届けられない深い思いをわかり合っていた。僕は河野の死後という時間を生きているけれど、今の自分もすべて彼女に知っていてほしいという思いが強いんです」




【永田さん → 河野さん】2014年。水仙は河野さんが好きだった花。庭にたくさん咲いていた。

あなたにはなくてわたしにのみ続く死後とふ時間に水仙が咲く
(永田和宏『置行堀』)


「河野のことを詠む歌は、生前より亡くなってからのほうが断然多い。今の自分を知っていてほしいという思いが募るんでしょうね」




河野さんと永田さん河野さんが自分を見ていてくれることが安心だったかつての日常(1998年頃)。「彼女はこんなふうに後ろから僕の鼻をびゃーっと触るのが癖でした」。

類似語を捨て、厳選した31文字。「作者が選ばなかった言葉を拾い集め、ぎゅっと詰まった思いをわっと膨らませて味わう──。歌が輝き、多くを訴えかけてきたら、それは正しい読み方だ」と永田さんは言います。

今日も永田さんの詠む歌は河野さんに届き、そこで大きく膨らみ、輝いていることでしょう。

〔特集〕喪失の哀しみに寄り添う言葉の力(全4回)

撮影/大道雪代 取材・文/浅原須美 構成・取材・文/小松庸子

『家庭画報』2022年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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