季節の移ろいを身近に感じながら、春夏秋冬のお洒落が楽しめる着物。さまざまな決まりやルールがあって難しそうと思うかもしれませんが、基本的なことを押さえれば、誰でも日常的に親しむことができます。 初心者でも独学でも、楽しくわかりやすく学べる着物の教科書『着物入門』(世界文化社)から一部を抜粋・再構成して、これからの季節に出番が増える単衣(ひとえ)の着物を着るときのポイントと、覚えておきたい基礎知識をお届けします。
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白に水色を織り分けた爽やかな御召を単衣仕立てに。光沢のある素材と涼感のある色合いは、春単衣に最適の一枚。貝紫色(かいむらさきいろ)をポイントにした染め帯を合わせると、軽やかな春のお出かけ着に。トンボ玉の帯留で、さらに涼しげに仕上げます。袷と単衣、季節によって着物の仕立てが変わります
着物の形はどれも同じですが、仕立て方の種類は大きく2タイプの方法があります。
裏地(胴裏と裾まわし)をつけて仕立てた袷(あわせ)仕立てと、裏地をつけないで仕立てた単衣(ひとえ)仕立てです。
一般的に10月から翌年の4、5月頃までは袷仕立てを、6月から9月頃までは単衣仕立てを着用します。
袷仕立て、単衣仕立てには、いくつかのバリエーションがあります。袷仕立てをアレンジした「胴単衣(どうひとえ、胴裏抜き仕立て)」は、裾まわしはつけますが、胴裏を省略した仕立て方で、胴裏がない分軽やかです。
さらに、簡略化して、袖口、裾、上前(うわまえ)の衽(おくみ)だけに裏地をつけた「人形仕立て」と呼ばれるものも。
どちらも見た目は袷仕立てに見えるので、春に急に気温が上がったときや、まだ暑さの残っている秋口に活躍します。
また、汗をかきやすい人や暑がりの人は、最初からこうした仕立て方にすることもできます。着物を誂えて、仕立てをする際に、呉服店などに相談するとよいでしょう。
袷仕立て:10月から4、5月頃まで着用する袷の着物の裏側。藍色の部分が裾まわし、白い部分が胴裏。胴裏の素材は、現在は白い羽二重(はぶたえ)が基本ですが、昭和30(1955)年頃までは「紅絹(もみ)」が一般的でした。本来の紅絹は紅花(べにばな)染めで「体を温める」という紅花独特の漢方効果がありました。
単衣仕立て:6月頃から9月頃まで着用する単衣の着物は、裏地のない一枚仕立て。後ろ幅いっぱいについている白い布は「居敷当(いしきあ)て」といい、透け感のある着物に多く見られます。腰の部分の生地を保護する役目もあります。
時期はあくまでも目安。自分の肌に合った着方を選んで
袷仕立てと単衣仕立てを着分ける時期は、住んでいる地域やその年の気候などによって、変わってきます。一年中暖かい沖縄地方では袷を着る必要はなく、逆に北海道では9月の初めから、あるいは5月になっても袷を着る場合があります。
時期はあくまでも目安として、自分の肌に合った着方を選ぶようにします。
単衣着物と薄物
また、裏地のない単衣仕立てを着る目安は、6月から9月ですが、実際に「単衣着物」を着るのは、6月と9月だけとされています。ただし近年は温暖化に伴い、地域や気候によって4月下旬から着始める人もいます。
単衣仕立てを着る季節の中で、とくに暑い7月と8月の盛夏には、見た目にも涼しげな透け感のある絽(ろ)や紗(しゃ)、麻などの素材を身につけますが、和装の世界では、これを「薄物(うすもの)」と呼んで「単衣着物」とは区別しています。