我慢節約
「なぐさみのために人々を苦労させてはならない」 ――『武野燭談』
豊臣政権時代と隠居場として、家康は2度、駿府城を本拠地としている。この言葉はどちらの頃に発せられたかは定かではないが、駿府城に池を作る計画が持ち上がったときの話。安倍川から運河を引くため、小さな寺を潰さねばならなくなったとき家康はいった。「池を作るのは私のなぐさみのため。そのために昔からある寺を壊すなど、人々を苦労させるべきではない」。倹約家で知られる家康だが、自身の贅より民を慮ることができたからこそ、家臣から慕われたのだろう。
「そなたたちはわしがケチで麦飯を食べているとでも思ったのか。今は乱世である。家臣たちに倹約させ、わし一人が贅沢なんぞできんのだ」
――『武将感状記』
三河時代、麦めしばかりを食べていた家康。側近は気を利かせて椀に米を入れ、その上に麦めしを少しのせ家康に出したところ「お前たちは私の気持ちがわかっていない」と怒ったという。戦乱の中、満足に寝食もとれない兵たちを差し置いて、自分一人で贅沢はできない。自分の食事を節約し、合戦に役立てたいという家康の気持ちは家臣の士気を上げたに違いない。