希望を持たせてくれた幸運な作品との出会い
主人公に差し迫る状況と心境の変化には見る側も心が揺さぶられるが岡田さん自身はこの役を通して何を実感したのか。
「工藤は本当にダメなやつですが愛すべきキャラクターだと思います。下手をするとサスペンス要素だけとなってしまう最悪の4日間にはコメディの要素もあって、それでオブラートに包んでいるところもあります。
映画は体験するものなのでクスッと笑ったり、怖くなったり、ダメなことをしていることに頑張れと思えたり、そうしたいろんな感情に惹かれるのが映画のよさであって、それが詰まっている作品です。監督はコメディの部分をどこまでやっていいのかということをシビアに考えられていました。
工藤は子ども好きだけど奥さんとはうまくいかずに離婚をせっつかれていて、母は亡くなったばかり。しかも生活するお金のために犯罪にも手を染めているという人物です。強くなりたいけれどうまくいかないし、格好をつけたいけれど格好悪いというようなキャラクターですが、演じる上でやり甲斐がありました。“コメディやっています”というのがやり過ぎと伝わると冷めてしまうので、そこに気をつけました。カメラの効果によっても変わるのでコメディはその加減が難しかったですね」
岡田さんは本作で藤井監督をはじめ若手の映画のクリエイターたちとの作品作りでどんな思いを抱いていたのだろう。
「藤井監督はCGを使わずに実際に撮影するために彼なりのギリギリのラインがあって、ある程度のクオリティを守られていたと思うんです。スタッフを信じているし、映画を信じているし、観客を信じているという彼なりの物差しがあって、いいものだけを作りたいという思いがあって。
さらに彼は人の動かし方がうまい。そこがすごいですね。長い間、日本映画に携わらせてもらってきたなかで、30代のスタッフが元気なことがいちばん大事なんですが、彼らが本当の意味で台頭するのはとても難しいんです。それがこの現場では起きていた。彼らと共に今という時代にこの作品を生み出せることが喜びや希望になると感じています。この映画が日本の映画史のキー作品になることを願っています」
演者としてだけでなく、作り手としての情熱も伝わってきた。
岡田准一(おかだ・じゅんいち)
1980年、大阪府生まれ。『木更津キャッツアイ』シリーズ、『SP』シリーズの主演を務めるなど、俳優として活躍。2014年『軍師官兵衛』でNHK大河ドラマに初主演。2015年の日本アカデミー賞では『永遠の0』で最優秀主演男優賞、『蜩ノ記』で最優秀助演男優賞というダブル受賞を果たした。主な映画出演作品は『散り椿』(2018)、『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』(2021)、『燃えよ剣』(2021)、『ヘルドッグス』(2022)など多数。NHK大河ドラマ『どうする家康』に織田信長役で出演中。
『最後まで行く』
© 2023映画「最後まで行く」製作委員会2014年に公開された韓国映画『最後まで行く』のリメイク作品で、一つの事故をきっかけに人生の歯車が狂っていく刑事の姿を描いたクライムサスペンス。
韓国では5週連続1位、観客動員数は345万人という大ヒットを記録し、第67回カンヌ国際映画祭の監督週間招待作品に選出された。その後中国、フランス、フィリピンでリメイクされたという人気作。
監督は『新聞記者』で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した日本の映画界を牽引している藤井道人。出演は岡田准一、綾野 剛ほか。全国東宝系にて公開中。
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https://saigomadeiku-movie.jp/ 構成・文/山下シオン
『家庭画報』2023年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。