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『闇に咲く花』で井上ひさしさんの戯曲に初挑戦、松下洸平さんが語る作品への想い

2023.08.24

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〔注目の人〕松下洸平

松下洸平

松下洸平(まつした・こうへい)
1987年、東京都生まれ。2008年にシンガーソングライターとしてデビュー。翌年から俳優活動を始め、NHK連続テレビ小説『スカーレット』(2019)のヒロインの夫・十代田八郎役で注目を集める。主な出演作はドラマ『最愛』、『アトムの童』、『合理的にあり得ない』、映画『燃えよ剣』、舞台『カメレオンズ・リップ』、『夜来香ラプソディ』など多数。映画『ミステリと言う勿れ』が2023年9月15日より公開予定。Tver初のオリジナルドラマ『潜入捜査官 松下洸平』が2023年9月に配信予定。

積み重ねてきた経験が“今”に生かされる

さまざまなジャンルで多彩な才能を発揮している松下洸平さんが、今回出演する『闇に咲く花』で井上ひさしさんの戯曲に初めて挑む。


「こまつ座」が上演する舞台としては、これまでに『木の上の軍隊』と『母と暮せば』の2作品で経験を積み、演出を手がける栗山民也さんとともに作品作りに取り組んできた。

「僕は『木の上の軍隊』の再演で新兵を演らせていただいたのですが、実は2013年の初演で藤原竜也さんが演じられたのを客席で観ていたんです。すごい作品だなと衝撃を受けましたが、その時はまさか自分が演るとは思っていませんでした。栗山さんからは戯曲との向き合い方や斜面の舞台での芝居の仕方などを教わり、舞台俳優としてまたひとつ成長しなければならないと意気込んでいたという記憶があります。栗山さんとの出会いは23歳の時で、それから10年以上経ちますが“いつか井上さんの戯曲を一緒に演りたい”という話をさせていただいていました。『母と暮せば』と『木の上の軍隊』の原案は井上さんですが、脚本は他の作家さんが書かれているので、『闇に咲く花』で、ようやく念願が叶いました」

松下さんは待望の井上さんの脚本をどのように捉えたのだろうか。

「第二次世界大戦の終戦から2年後という時代背景で、人々はまだまだ貧しい暮らしをしていたと思います。作品に登場する女性たちは、戦争で旦那さんを亡くした未亡人ばかりで闇市で食料を調達しながら細々と暮らして、決して裕福ではなく、一見、暗いお話なのかと思っていたら、脚本を読んでいくとゲラゲラ笑ってしまうほど明るく描かれているんです。笑顔が絶えない人ばかりで、悲しいことを悲しいままに描かない“井上ひさしイズム”の詰まった作品だと思いました。熱量があって、一生懸命生きようとする庶民の物語を通して井上さんらしく戦後を表現されている。栗山さんがいちばん好きだとおっしゃっていた意味が少しわかったような気がします」

そう語る松下さんの言葉からは“むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく......”という信条で執筆していた井上さんの台詞に込められた思いが伝わってきた。

井上ひさしが台詞に込めたメッセージを伝える


松下さん

ジャケット7万1500円 パンツ2万8600円/ともにバーンストーマー(ヘムトPR) シャツ1万2100円/セカンドエグジスタンス(エフエムワイインターナショナル)

「戯曲を読んで真剣に台詞と向き合う。井上ひさしさんが伝えたかったことを少しずつ紐解いていきます」── 松下洸平

肉体を通して台詞を発したときに実感できた“役”の気持ちについても伺った。

「僕が演じる健太郎という青年の言葉は、健太郎の言葉であると同時に井上ひさしさんが世の中に伝えたいと考えて書かれたメッセージだと僕は捉えているんです。全編を通してそれが映し出されている。舞台となる神社は健太郎が生まれた場所でもありますが“人々の心にそっと寄り添う場所”でもあるんです。健太郎は一貫して神社にそういう役割があることを訴えかけるんですが、それは戦後の悲惨な状況を生きる人々のそうありたいという魂の叫びでもあると思います」

そう語る澄んだ瞳には“健太郎”に通じるものを感じる。共通点はあるのか?

「彼はすごくまっすぐな青年です。野球が大好きで、エースとしてやっていただけあって根性がすわっていますね。スポーツ万能ですがその才能に溺れることはなく、真摯に生き続けてきたんだろうなと思います。今は役として客観的に見ている感じですが、実際に演じることで全く違うキャラクターになる可能性もあると思っています。『木の上の軍隊』の新兵ができ上がったとき無垢で子どもっぽいキャラクターになったんですよ。稽古を重ねていくことで違う一面がたくさん出てくるでしょうし、山西 惇さんや浅利陽介くんと一緒に芝居したり、栗山さんが引き出してくださったりすることで変化していくものではないでしょうか」

そして今回の役作りに必須の「野球」は苦手らしいが、どう克服するのだろう。

「僕は稽古場に入ったらとりあえずキャッチボールの練習からしなければならないと思っています(笑)。浅利くんがすごく野球が上手なので心強いですね。公演で福岡に滞在しているときに山西さんと一緒に野球の試合を観たことがあるんですが、当時の僕はルールがわかっていなかったので、1回から9回裏までほぼ山西さんに解説してもらって見ていました。山西さん、全然試合を見られなかったと思います(笑)。今は勉強しているので理解できるようにはなりました」

多分野で活躍し、何でも器用にこなしそうな松下さん。今後挑戦したいことはあるのだろうか?

「僕は不器用です。お芝居も歌も単純に好きなことで。でも、もしやれるなら料理教室に通って、和食を極めてみたいです」


こまつ座第147回公演
『闇に咲く花』


こまつ座第147回公演 『闇に咲く花』

井上ひさしにより1987年に昭和庶民伝三部作の第2弾として初演され、5回にわたり再演を重ねてきた。時は1947年の夏、東京・神田の愛敬稲荷神社で未亡人たちの力を借りてお面工場を経営し、闇米の調達に奔走している神主のもとへ戦死したと思っていた息子が帰還する……。

日本人としての戦争責任への問いかけというテーマを展開しつつ、戦後の混乱を必死に生き抜く庶民の姿や忘れてはならない「記憶」などを描いた悲喜劇である。

演出は初演以来携わってきた栗山民也。出演は山西惇、松下洸平、浅利陽介ほか。

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
〜2023年8月30日
入場料1万円(全席指定)
こまつ座 電話 03(3862)5941
※愛知、大阪、福岡公演あり
表示価格はすべて税込みです。
撮影/岡積千可 構成・文/山下シオン ヘア&メイク/赤木悠記 スタイリング/渡邊圭祐

『家庭画報』2023年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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