〔特集〕グリーグ生誕の地、ノルウェーへ 2023年5月末、英国名門オーケストラとの日本ツアーを終えた辻󠄀井伸行さんは、すぐにノルウェーへと旅立ちました。北欧最大級のアートフェスティバル「ベルゲン国際芸術祭」に招かれたのです。音楽、演劇、ダンスなどプログラムが200以上、歴史的な建物などを会場に、15日間にわたって開催されます。ベルゲンは、ノルウェーの国民的作曲家、グリーグの生誕地。辻󠄀井さんのリサイタルはグリーグが晩年を過ごした場所「トロルハウゲン」で行われました。
「ベルゲン国際芸術祭」単独密着取材
辻󠄀井伸行 魂のピアノ
作曲家グリーグが晩年の22年間を過ごした、小高い丘に広がる自然豊かな土地「トロルハウゲン」。ここで2日間、辻󠄀井さんのリサイタルが行われる。頂上にある19世紀ヴィクトリアン様式の家は、グリーグ博物館として公開されており、当時の様子のままのリビングが、2日目の演奏会場となる。
辻󠄀井󠄀󠄀伸行さん(つじい・のぶゆき)1988年東京都生まれ。2009年ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで日本人として初優勝。以来、欧米を中心に世界の主要都市でリサイタルを行い、著名な指揮者、オーケストラとの共演も多数。日本を代表するピアニストとして、世界的オーケストラの日本ツアーのソリストに抜擢されることも多い。
草屋根のコンサートホール「トロルサーレン」
白夜に響くピアノの音
初日2023年6月2日のリサイタル会場は、グリーグ私邸の敷地、トロルハウゲン内に1985年に建築されたコンサートホール「トロルサーレン」。ガラス越しに見えるグリーグの作曲小屋を背景に、辻󠄀井さんが熱演。リリカルなピアノの音が白夜の風景と溶け合い、200人の聴衆の胸に届いた。 Troldsalen,Troldhaugen(トロルサーレン,トロルハウゲン)Troldhaugvegen 65,5232 Bergen, Norway
作曲家グリーグの創造の源となった場所で
「グリーグの曲に表現された、豊かな自然を感じることができました」—— 辻󠄀井伸行さん
明るい光が一日中降り注ぐ季節。澄んだ青空が広がります。ノルウェー第2の都市べルゲン中心部から車で20分ほど南下し、フィヨルドの青い煌めきを望む小高い丘に到着。緑溢れるこの広大な場所が、作曲家エドヴァルド・グリーグが晩年を過ごした「トロルハウゲン」です。
丘の頂上に到着。辻󠄀󠄀󠄀井さんはリーグの家の前のベンチに座り、その場の空気感をゆっくり味わった。
「豊かな自然を感じますね。とても静か。鳥の鳴き声が聞こえてきます。空気がとっても気持ちいい!」
そよ風に吹かれてベンチに座る辻󠄀󠄀󠄀󠄀んは、北欧の空と海と緑に祝福されているかのようです。
草屋根が特徴のコンサートホール「トロルサーレン」。グリーグの銅像(下)が迎えてくれる。
トロルハウゲンは、“妖精(トロル)の棲む丘”の意。19世紀ヴィクトリアン様式のグリーグの家(リサイタル2日目の会場)から、フィヨルドまで下る長い散策路の途上に、屋根に草生(む)すユニークなコンサートホール「トロルサーレン」があります。
「トロルサーレン」から散策路をさらに下ったところにある、小さな作曲小屋。すぐ目の前にフィヨルドが広がり、草木に囲まれた静かな場所。今にも妖精が出てきそうな雰囲気。
グリーグの作曲小屋内部。当時のままに残されている。
ガラス張りのステージから見えるのはグリーグの作曲小屋。海を眺める窓辺に作曲机、アップライトピアノ、曲の構想を練ったであろうソファが当時のままに。
愛するグリーグの音楽が生み出された百数十年前の気配を感じながら、ピアノに向かう辻󠄀井さん。その音色が聴衆の胸に、静かに、熱く響きます。
エドヴァルド・グリーグ
1843〜1907年。ノルウェーの国民的作曲家。ベルゲン生まれ。今年生誕180周年。指揮者、ピアニストとしても活躍し、指揮者引退後の1885年からトロルハウゲンに暮らした。民俗音楽から着想を得た作品や、『ペール・ギュント』など戯曲の音楽も多く手がけた。
※次回に続く
辻󠄀󠄀󠄀󠄀󠄀󠄀󠄀󠄀󠄀󠄀󠄀󠄀󠄀󠄀井伸行さん出演国内コンサート●2023年9月29日(金)~10月1日(日)・10月3日(火)
ARK Hills Music Week 2023
サントリーホールARK クラシックス
●2023年10月18日(水)~10月26日(木)
クラウス・マケラ指揮
オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
※東京、静岡、愛知、大阪、熊本
・
特集「グリーグ生誕の地、ノルウェーへ」の記事一覧はこちら>>>