選ばれた人こそがなし得る“モノクロ”という表現
本作に感じたストイックさとは?
「例えば、音楽は劇中劇で使われる以外は一切使わないという姿勢も潔いですし、“モノクロ”を選択したことも作家性が滲み出る挑戦だと思います。今の日本映画ではやらせてもらえないようなことを勇敢に、そして身軽にやってのけたという感じがしました。モノクロで勝負できるのは、限られた人だけだと思うんです。ロウ・イエ監督はそれができるかた。カラフルな色づかいで芸術的に引っ張る作品も好きですが、この作品は白黒のコントラストが生む美しさや緊張感がストーリーをより活かしていると思います。
監督の現場には5、6台のカメラがあって、常に長回しの撮影になるんですが、そのことで現場にはすごい緊張感が生まれるんです。スタッフもキャストも気が抜けない長い時間を過ごさなければなりません。その緊張感が、短いカットだとしてもフィルムに乗ってくると思うんです。それも監督の演出の一つなのでしょう」
「ロウ・イエ監督の作品の一部として自分が表現できたことは役者冥利に尽きますし、自信にもなりました」とオダギリジョーさん。ジャンプスーツ8万5800円/ETHOSENS of white sauce
そして今回共演したコン・リーさんの演技には女優魂を感じたと語る。
「コン・リーさんといえば、映画史に残る名作に数多く出演されている、中国を代表する大女優です。そんなことを感じさせないほど、すべてのスタッフや共演者に対して分け隔てなく接していましたし、何度も何度も繰り返し撮影する監督のスタイルに、文句もいわず身を捧げる姿には感動しました。身体的にも精神的にも大変な撮影が続いたと思いますが、彼女の笑顔にみんな癒やされていたと思います」
舞台となった上海にはどんな印象を持ち、滞在中はどのように過ごしたのか。
「上海には、北京とも香港とも違う“魔都”という言葉に表される妖しい魅力を感じました。あの時代から残る古い西洋建築がその要素の一つだと思います。この映画の本国の題名でもある“蘭心大劇院”は撮影現場としても使われていて、とても素敵な劇場でした。雪が降ったある日、劇場がホテルから近いこともあって、写真を撮りにいきました。とても絵になる街ですね」
では自分のための時間には何をする?
「リラックスしているという意味では、家にいるときに一人でお酒を飲んだり、映画を観たりして過ごしますね」
オダギリジョー(おだぎり・じょー)1976年、岡山県出身。アメリカと日本でメソッド演技法を学び、俳優として活動を始める。『アカルイミライ』(2003年)で映画初主演。監督として初の長編作品『ある船頭の話』(2019年)は第76回ヴェネチア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門に選出。直近の出演作にはNHK『カムカムエヴリバディ』(2021年)、映画『658km、陽子の旅』(2023年)、『月』(2023年)など多数。また脚本・演出・編集・出演を務めた自身初の連続ドラマであるNHK『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』(2021年)は東京ドラマアウォード・単発ドラマ部門でグランプリを受賞。主演・プロデューサーを務めるドラマ『僕の手を売ります』がフジテレビが運営する動画配信サービスFODとPrime Videoで配信中。
『サタデー・フィクション』
ⓒ YINGFILMS 配給:アップリンク
魔都と呼ばれていた上海を舞台に、欧米中日各国の諜報部員たちが暗躍する太平洋戦争の開戦前の7日間を描いた作品。本作はロウ・イエ監督の11作目の映画で2019年のヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に正式に出品された。
出演はコン・リー、マーク・チャオ、中島歩、パスカル・グレゴリー、トム・ヴラシア、ホァン・シャンリー、ワン・チュアンジュン、チャン・ソンウェン、オダギリジョーほか。
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋、アップリンク吉祥寺ほか全国公開中。
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