クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第305回 ショパン『舟歌』
イラスト/なめきみほ
ショパン最晩年の名作の背景とは
今日7月1日は、フランスの作家で、ショパン(1810~49)の恋人としても名高い、ジョルジュ・サンド(1804~76)の誕生日です。
リストの紹介によってパリのサロンで知り合ったショパンとの関係は深く、マジョルカ島への逃避行から、ノアン及びパリでの同棲生活を通じて、病弱なショパンを献身的に支えたサンドの存在は、ショパンの創作活動に大きな影響を与えています。
そのショパンが晩年に手がけた唯一の『舟歌』は、長年連れ添った恋人サンドとの関係が破局寸前となり、持病も悪化して心身ともに疲れ果てた状態のショパンが残した名作です。憧れながらついに見ることのなかったヴェネツィアの海を思い描いたこの作品について、同時代の文筆家フォン・レンツは、「これは2人以上の前で弾いてはならない曲だ」という言葉を残しています。
2人の姿は、ドラクロワの『ジョルジュ・サンドの前でピアノを弾くフレデリック・ショパン』に描かれていますが、絵は後に分断され、ショパンの部分はルーブル美術館に、サンドの部分は、デンマークのオールドルップゴー美術館に保管されています。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。