連載「いのちに想う」3月 換毛(かんもう)
ノウサギ
文=小林朋道(公立鳥取環境大学学長・動物行動学者)鳥取環境大学のキャンパス林にはノウサギが棲んでいる。夏や秋の夜、車で帰宅するとき、キャンパスの道路で光にあたって浮かび上がる長い耳のシルエットにはっとすることがある。
キャンパスが雪で覆われたときは、出勤すると雪上にウサギ特有の足跡を見ることがある。3月にはノウサギの体色を巡って、運が良ければ、興味深い状況を目にすることができる。
ノウサギには夏毛と冬毛があり、それぞれ茶色と純白である。ところが3月は冬毛から夏毛にかわる時期であり、体の頭側が茶色、尻側が白という奇妙な体色になる。
3月のある日、雪はすべて消えてしまった林でそんなノウサギに出会った。私は「もう全身、茶色になったほうがいいよ」と心のなかで言ってやった。ところがそれから数日して雪が降り、林には白い模様が散在した。ノウサギは正しかったのだ。
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