〔特集〕コーディネート拝見から心躍るアイテムまで 春爛漫の器あそび うららかな陽気とともに、テーブルを彩る器でも思いきり春を楽しんでみませんか。集いのシーンをセンスアップするコーディネート術、進化する名窯地への小旅行、贈り物にしたい人気作家のアイテムなど、暮らしに華やぎをもたらす器の「今」にご案内します。
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達人のコーディネート拝見
器で華やぐ、春のテーブル
目にしただけでわくわくする、華やかな春のテーブル。多様な国籍の器、アンティークや現代作家の器を自在にコーディネートする達人たちのおもてなしのテーブルから、心を摑む演出術のヒントを学びます。
表千家13代家元即中斎 好の盆には上から時計回りにリチャードジノリのピッチャーとカップ&ソーサー、リモージュのカップ、14代柿右衛門 作の小鉢。和洋混在の妙は垂見圭竹さんの取り合わせ。
空間芸術の達人に学ぶ、洗練された骨董づかい
垂見圭竹さん(フラワーアーキテクト)
垂見圭竹さん(たるみ・けいちく)1997年LADAKH(ラダック)flower studioを設立。「花は飾ればインテリア」がテーマの、凜とした花生けに評価が高い。羽田空港JAL国際線ファーストクラスラウンジ、カッシーナ・イクスシー、ラリック、伊勢丹新宿本店など名だたる企業、トップメゾンのフラワーデザイン、空間装飾を手がける。
花やグリーンで、ダイナミックな空間芸術を演出することで定評のある垂見圭竹さん。茶道を嗜み骨董を愛好する父と華道を嗜む母のもと、ご本人も幼い頃からお花とお茶を学びました。
「幼き日の夏、母が障子を簾戸(すど)に替え香を焚き、青磁の花器にたっぷりカサブランカの花を飾ったとき、室内の空気ががらりと変わったのに衝撃を受けました。それが『暮らしの花』を初めて意識した瞬間で、原点のように思います」と垂見さん。
長じてイタリアの一流家具ブランド「カッシーナ・イクスシー」のショールームで花装飾を手がけるようになると、室内との調和を念頭に色数を抑え、枝ぶりを生かし、インテリアのように花を飾る独自のスタイルが評判を呼びます。こういった考え方は器にも通じるといいます。
父譲りの骨董好きで、20代から集め始めた骨董は、今ではストックルームを借りるほどですが、好きだからと多用しないのが洗練された骨董づかいの極意。取り合わせで大切にしているのは全体のムードづくりで、「甘さを抑え、凜とした佇まいの中にちょっと愛らしさを添える」のが垂見さん流。確かにティータイム、ディナータイムどちらのシーンでも、古伊万里や古い清水焼は存在感抜群です。
高層ビル群の夜景を愛でながら、ディナータイムの幕があく友人ご夫妻を招いてのディナータイムは、グリーンの濃淡の器、花をあしらったオールドバカラのケーキスタンド、ラリックのグラス類や花をかたどった明治期の色ガラスに、古伊万里の小皿や向付が並ぶ構成で、フランスの器と日本の器、現代のものとアンティークのものが見事に引き立て合う。
春をテーマに設えたディナータイムの卓上ではリモージュの老舗名窯「ジョーヌ・ド・クローム」の萌黄色のプレートが起点のひと皿になりました。かつてニューヨークの髙島屋で出合い、自身の鍋島や古伊万里に合うと一目惚れして持ち帰ったものでした。そして器合わせの最後のピースを飾ったのは、生命力を象徴するように冴え冴えとした緑色の16代永楽即全作の菓子皿「勾玉」。
垂見さんは決め手のひと皿を求めて京都へ向かい、巡り合ったというのですから驚きです。いずれも骨董が好きという、長年の熱い思いが引き寄せたに違いありません。
求め続ければ呼ばれるようにして欲しい器と出合える。そんな奇跡も、器好きにはたまらない魅力なのかもしれません。
ムードを貴ぶ空間演出。凜とした中に少しの愛らしさで春の集いにふさわしく、古い中国簞笥にはラリックの花器「バコントゥ」からオンシジウムの花がたわわに枝垂れ、リビングのガラステーブルでは友人と過ごすティータイムのしつらい(詳細は次写真)がゲストを待つ。中国の家具とフランスの花器が調和する絶妙な空間バランス。インテリアのショールームで磨かれた感性が光る。
ティータイムは初夏に先駆けて、クリスタル主体で軽やかに季節に先駆けてアジサイやクレマチスといった初夏の花での客迎え。ガラスを多めに使い爽やかなムードをと選んだのは、杏仁豆腐をのせたオールドバカラのクープグラス、敷皿には六角盆。銀の彫金が施された古いフランスのシュガーポットとエッグスタンドは、瑠璃色のガラスが染付に合うと入手したもの。凜とした印象の秘訣は花あしらい同様、抑制の効いた器の色づかいにある。透明のほか、緑色に瑠璃色、シルバー、白しか使われていない。そこに垂見さんがこよなく愛す古伊万里の小皿と古い清水焼の豆皿。色を抑えてこそゲストの目を引く華やかな演出だ。
おもてなしの花あしらい
屋久島に旅したときに出合った籠を持つ女性像(山下正行 作)。コデマリを胸いっぱいに飾ってウェルカムの花あしらい。
廊下のコーナーには韓国の機織り機の一部を転用したモダンな掛け花。視線を上へ誘導する心憎い空間マジック。
足もとのランの花が奥へと誘う。昼間でもキャンドルを灯すのが垂見さんのスタイル。
山深い原生林に生えていた樹齢何百年もの沢栗をくりぬいて作られた大椀は、漆芸家3代目村瀬治兵衛 作。縁に掛けた流木にも風雪に耐えた存在感があり、そんな壮麗な舞台を背景に、初夏のベルテッセンが軽やかに空間を舞う。