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この水羊羹をご存じならば、かなりの京都通です

2018.03.30

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おばんざい「大村しげ」を辿る 田丸弥 吉田達生さん「田丸弥」吉田達生さん。17代目の当主として忙しい日々の一方で、京都観光おもてなし大使として、地方の物産展に出向くなど京都のファンを増やす活動を続けていらっしゃいます。

「吉田君とこ、有名なお煎餅屋さんなん?」


吉田達生さんがはじめて大村しげさんに会ったのは19~20歳の頃のことです。活動を始めた頃の大村さんは、執筆の傍ら1965年からの数年間、京都市が設置した働く若者の文化交流施設、京都市西陣勤労青少年ホーム「西陣青年の家」に勤務していたことがあります。吉田さんは青年の家の利用者の一人でした。

「大村しげさんは青年の家の職員で、おばんざい教室も担当されていました。私はアマチュア無線クラブに所属していたので『無線の子』というふうに呼ばれていました。あるとき、大村しげさんから『吉田君とこ、有名なお煎餅屋さんなん? 一度、お父さんの話を聞かせてくれへん』と言われましてね。当時、大村しげさんのお名前はある程度知られていて、父もお名前は存じていたと思います。でも、私が西陣青年の家で友人だとは思いもよらなかったようです」


大村しげさんと青年の家利用者の間柄はサービスを受ける側、提供する側というものではなかったと、吉田さんは懐かしそうに話します。「ときにはバケツを抱えて洗濯物を一緒に屋上で干したりしましたね」と、お話から年の離れたよき友人関係だったことが伝わりました。また、先代にあたる吉田さんのご両親は、大村しげさんとともに彼女が大好きだったバリ島へ旅行をされたほど親しくされていました。

おばんざい「大村しげ」を辿る 田丸弥 吉田達生さん店舗は築約90年の京町家。京都のよもやま話は吉田さんのおもてなしのひとつ。取材中、京都の町家の2階建ての2階部分の高さが時代とともに変化した理由を、私見を交えながらおもしろくお話しくださいました。

ご夫婦で大村しげさんとお花見や大文字へ


西陣青年の家での出会いをきっかけに、結婚前から吉田さんご夫婦は大村しげさんと非常に親しくお付き合いされていました。「おうちへ行くと『まあ、お入り、お入り』と、家内とともに堀りごたつに入れてもらって。大村しげさんは私の親と同年代なのに、まだ、20歳代前半から半ばの私を一人前扱いしてくださった。いろんなお話が聞けて本当に居心地のいい間柄でした」。おばんざい 大村しげ1979年、吉田さんご夫妻の結婚式で主賓を務めた大村しげさん。こちらは結婚式の時の貴重な写真です。(写真提供/吉田達生さん)

吉田さんと奥様は、お花見、大文字(※)、お月見など、お出かけの思い出がたくさんあるとのこと。「『あそこ、知ってるか? 連れてって』と言われて、あちこちへ遊びに行きました」と吉田さん。乗用車としてミニバンが普及していない時代、田丸弥の配達用のワンボックスカーの座席の位置が高く助手席からの眺めがいいと、大村しげさんのお気に入りだったそうです。

大村しげさんは1994年に脳梗塞で倒れ、以降は車いす生活となりましたが、ときには走る車中から、また病院の屋上から。奥様が主にケアをされながら3人のお出かけは続きました。1979年のお二人の結婚式に、大村しげさんが主賓として招かれていることからも3人の仲の良さが伝わってきます。

「本当に気さくで、ふっくらしたお姿からも優しさが伝わる方でした。お話ししていても本当に楽しくて。印象的だったのは、お好きだったコーヒーです。『飲むと眠くなるねん』といつもおっしゃっていて、普通は逆ですよ、なんて笑っていました」と奥様。
※毎年8月16日に行われる五山の送り火。地元では大文字といいます。

おばんざい「大村しげ」を辿る 田丸弥 吉田達生さんかつて、大村しげさんの友人の鈴木靖峯さんが始めた「手作りの店 峯」で売られていた絵葉書(吉田さん所有)。大村さんは店舗として自宅の一部を提供。店内には若手作家らが作る工芸品が並んでいました。大村しげさんは家で書き物をしながら、日中は接客も。「わかりやすく言うとタバコ屋のおばさんみたいな存在でした(笑)」(吉田さん)

おばんざい「大村しげ」を辿る 田丸弥 吉田達生さんこちらは、吉田さんの奥様が「手作りの店 峯」で購入した器。今も大切に使っています。

現在、吉田さんは、京都観光おもてなし大使を務めています。歴史や京都の文化にお詳しいので、接客を兼ねて京都にまつわる珍しいお話を、私見を交えながら聞かせていただくことができます。今ではそれを楽しみに訪れるお客様も少なくありません。

「私が若いころ、大村しげさんにさまざまな昔の話を聞かせてもらったのと、似ているかもしれませんね」と吉田さん。今回も取材の合間に、店内の雛飾りの見どころ、築90年の店舗の建築様式、御土居(※)についてなど、楽しいお話をお聞かせいただきました。

大村しげさんの愛したお菓子を訪ねるとともに、よき土産話を聞きに田丸弥へ足を運んではいかがでしょうか。

※豊臣秀吉の時代、京都の外周に設けられた盛り土。現在も京都にはその名残が保存されています。

Information

田丸弥 本店(たまるや ほんてん)

京都府京都市北区紫竹東高縄町5

TEL 075-491-7371
営業時間 8時30分~17時30分
定休日 日曜・祝日、1月1日~4日 (※7月第3月曜(海の日)、8月11日、12月23日(日曜の場合は翌日)の祝日は営業)

http://www.geisya.or.jp/~tamaruya/

    川田剛史/Tsuyoshi Kawata

    フリーライター
    京都生まれ、京都育ち。ファッション誌編集部勤務を経てフリーライターとなり、主にファッション、ライフスタイル分野で執筆を行なう。近年は自身の故郷の文化、習慣を調べるなか、大村しげさんの記述にある名店・名所の現状調査、当時の関係者への聞き取りを始める。2年超の調査を経て、2018年2月に大村しげさんの功績の再評価を目的にしたホームページをスタートした。
    http://oomurashige.com/
    取材・文/川田剛史 撮影/中村光明(トライアウト)
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