「後ジテの毛振りへとたどり着くまでの物語のプロセスをご覧いただきたい」
襲名披露の巡業公演では二ヶ月にわたって踊った『連獅子』。踊り重ねる中で演目に対する印象に変化はあったのでしょうか?
歌昇「花道の七三での仔獅子の勇壮な見せ場や、豪快な毛振りの場面が取り上げられることが多い演目ですが、むしろ難しいのは狂言師の姿で踊る前段の部分なんです。公演を重ねる中で、長唄の詞章や振りの美しさに気付き、毛振りに至るまでの親子の情愛の物語のプロセスをご覧いただきたいと思うようになりました。
特に、花道を歩み出る最初の場面では、“品”や“格”を大切にしたいですね。父からは、振りだけでなく視線の一つに至るまで、とにかく基本に忠実に、上品に、と教えられています。どの演目もそうですが、崩すことは簡単なんです。でも自分のベースがきちんとできないうちに、崩すことはできない。どの芝居も、どの役も、これで完成!という終点はないので、突き詰めて、突き詰めて、そのもっと先にある世界を見てみたいと思っています。」
6月の国立劇場での歌舞伎鑑賞教室『連獅子』に続き、7月は大阪・松竹座で『廓三番叟』、そして8月4日(土)、5日(日)には弟の中村種之助さんと毎年行っている勉強会「双蝶会」での『積恋雪関扉』と、舞踊演目への挑戦が続きます。
歌昇「別に舞踊中心の年にしたい、といったわけではなく、たまたまご縁があって続くだけなのですが、踊りは大好きですし、歌舞伎役者にとって日本舞踊は芝居の所作の基本にもなる大切なものなので、大事につとめたいと思っています。テレビで違うジャンルのダンスのパフォーマンスを見かけても、自分が踊る時のことを重ねてしまうことも。映画『ラ・ラ・ランド』でも、『雨に唄えば』を思わせる場面が素敵で、タップダンスを踊ってみたいと思いました。もちろん歌舞伎舞踊でも『奴道成寺』や『土蜘蛛』など、いつか踊ってみたい役はたくさんありますよ」