「ジャポニスム2018」公式企画の一つとして、パリのポンピドゥセンターで11月23日から1か月半に及ぶ「河瀨直美回顧展とインスタレーション」が開催される。 ――『Vision』を拝見して、そんなビノシュさんはもちろん、山守・智を演じている永瀬さんも、素敵な年の重ね方が顔や佇まいに出ているなと感じました。
「ジュリエットは本当にいい皺を刻んでいますよね。永瀬くんは永瀬くんで、背中でも演技をしてくれて、無骨な山の男なんだけれどもセクシーで。永瀬くんとはすでに3作目で気心も知れているので、智は彼を念頭に“当て書き”しました。永瀬くんも私のやり方を理解してくれているので、山守らしい体をつくったうえで吉野に来て、クランクインの1週間前から山の家で智として生活していました」
――俳優に、撮影前から役が暮らす場所で生活してもらって“役を積んで”もらう河瀨メソッドですね。興味深いのは、『Vision』ではリアルな存在感を持ったキャストでファンタジックな物語を描いている点です。舞台も人の手が入っていない森ではなく、河瀨監督の故郷・奈良の林業で知られる吉野の森ですね。
「吉野の森は、杉と檜の植林地として500年の歴史を持っているんです。以前から、もう一度ちゃんと向き合って森を撮りたいと思っていましたし、その植林の歴史と技術を今しっかり継承しておかないと、このままでは森が死んでしまうという思いもあって、山守という存在を主に置いて表現したいと考えました。木も森も1代限りのものではなく、子や孫の代へと受け継いでいくもの。それはまさに“命を繋ぐ”ことでもありますよね。木は雨の日も風の日もそこに立ち、たとえ人に切られても何も言わず、人の営みを見守っている。そういうものを撮りたいなと」
――そんな吉野の森に、ハリウッド映画のスケジュールを調整してやってきたビノシュさんの反応はどうでしたか?
「映画の最初のほうの、ジャンヌが電車に乗って吉野に向かうシーンで、ジュリエットは既に涙をこぼしているんですが、あれは脚本にはなかったことなんです。彼女は念願の場所に来られたという感覚で、自ら涙をこぼした。すごい気合の入り方でしたね。頭で考えるのではなく、ちゃんと心を決めてくるのは、さすがだなと思いました」
――夏木マリさんといい、森山未來さんといい、田中 泯さんといい、今回のキャストにはダンサーの方が多いですね。
「意図したわけではなく、いいなと思う方達がそうだったんです。映画の象徴となっている木もダンスを踊っているような形だったので、惹き寄せられたのかな。期せずして色々なものが繋がっていった感覚があります。私の場合、これがどうしてもやりたいと思って向かっていくより、向こうからやってくることのほうが多くて。“ご縁”という言い方をしているんですが、その一つ一つを結んでいくことが、私の役割なのかなと感じています」