ミュージシャンはちょっと農家に似ている気がします
だから今も、できることは基本的に、全部自分でやる。大規模な撮影以外では、スタイリストもヘア&メイクもつけないし、自身のコンサートツアーで販売するグッズのデザインもやれば、パンフレットの文章も自分で書くというから、驚きだ。まさにマルチアーティストと呼ぶにふさわしい。
しかしながらフミヤさんは、10年ほど前に「仕事としてやるのは音楽だけでいい」と決めたという。理由は、仕事の幅を広げすぎたことから「本柱が細くなってしまった。このままでは自分の人生がダメになるかもしれない」と危機感を覚えたこと。
ある映画監督から“フミヤはいいよな。女を3分で泣かせられるだろ? 俺の場合は2時間かかるんだよ”といわれた言葉も、きっかけになった。
「確かにそうだな。ひょっとしたら自分は、とても面白い仕事をやっているのかもしれない。それをおろそかにしちゃダメだなと思いました」
考えてみれば、ミュージシャンは俳優と違って、ライブで自分を直接表現することも、そこでファンとじかに接点を持つこともできる。しかもその音楽が気に入れば、アーティストの絵やデザイナーの服よりも、ずっと簡単に買うことができるのだ。
「小説や映画のDVDは、気軽に買えはするけど、短編でもなければそんなにしょっちゅう読んだり、観たりしませんよね。でも歌は4分くらいだから、繰り返し聴けるし、自分でも歌える。まさに、人に寄り添えるものなんだと気がついた。それで、1本に絞ろうと思ったんです。
今は、運よく歌手になれて本当によかったと思うし、1つの柱がきちっとあるので安定しているというか、未来図としては“別に俺、歌っていくだけだし”という感じ。そこには何のブレも、不安のようなものもないですね」
そもそも、「ミュージシャンにはストレスがあまりない」というフミヤさん。作品の1つの駒として求められる俳優と違って、イニシアチブが自分にあるので、「自分で種を蒔いて、育てて、それを刈って売りに行く農家と、ちょっと似ている気がします」。
もちろん、それぞれの過程には苦労もあるのだが、「それも、この年になると楽しめます。新譜のプロモーションでテレビ局に行くと、“うわ、AKB48だ!”と思ったりしますから」と笑う。
「僕の場合は、すべての曲を自分で作らなきゃ嫌だ!というタイプでもないですしね。昔、プロデュース業をやっていたせいか、餅は餅屋で、自分より向いてる人がいるなと思ったら、仕事を振って手伝ってもらう。フットワークが軽いんです」