紅葉したヤマボウシ。間もなく一斉に落 葉する。ヤマボウシは、ヤマウルシとならんで 鮮やかに色づく。 草地はいわゆる草原のような環境で、昔は茅場や畑地などの周辺にあったものだ。 しかし土手というのは、田んぼの輪郭をつくるのに重要な働きをする。
平坦な場所では、農道や田んぼどうしの境目をつくる畦として必要だし、斜面の場合は、段差をつくるのになくてはならない。
この土手や畦は、稲作の仕事とともに管理がなされる。 たとえば、仰木地区では、年に5回の草刈りはかかせない。これは、田んぼを見まわるときに歩きやすくするということだけではない。最も重要なのは、土手を緻密に頑丈なものにするためだ。
土手に生える植物を刈り込んで、背丈を定期的に低くする と、生長の早い植物も遅い植物も同じ光を浴びることができる。このことによって、 植物たちの種類と密度が増える。近年、絶滅危惧種の多くの植物が、農地の土手に生き残っていることがわかりつつあるが、それは里山の植物たちにやさしい環境を人がつくってきたからだといえる。
そんな理由で、草地と土手とは、はっきりと分けるようにしたいと思っている。土手の再生にあたっては、健全な土手からス コップで20~30センチ角に切り込み、土ごと掘り起こし、それを、よみがえらせたい場所に点々とはめ込む。この“スポット植 え込み方式”は、すでにアトリエの庭で実 証済みで、条件がよいと翌年には、美しい土手が再生する。
12月下旬、珍しくアトリエが雪にすっぽりと包ま れた。音のない静かな世界が幻想的だ。でも、 この界隈では、雪景色は長くは続かず、フォト ジェニックな光景は、瞬く間に終わってしまう。これまでの記事はこちら>> 今森光彦
1954年滋賀県生まれ。写真家。 切り絵作家。
第20回木村伊兵衛写真賞、第28回土門拳賞などを受賞。著書に『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社)、『今森光彦ペーパーカットアート おとなの切り紙』(山と溪谷社)ほか。
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