会いたくないは、会いたいの裏返し
撮影にあたり、鹿野光枝さんに会ったという綾戸さん。そのときに、「なぜ、(前田 哲)監督が私を選んでくれたのか、わかったように思えた」と話します。
「60歳くらいになってくると、顔ができてくる。過去が見えてくる。光枝さんは、大変なことがいっぱいあったんだろうなということのわかる顔してた。知らんうちにいろんなことを乗り越えてるような顔しながら。相当、外に出さない人で、大変や言うたって仕方ないじゃない、と。そこは共感できたし、ちょっと似てるなと思った。それで、(自分が選ばれたのは)“あ、ここか”と。だから、そこは大切にしよと思いました」
綾戸さんは、「私は台本から何かが見えてくるタイプではなく、監督の“綾戸さん、ここはこうでね、ああでね”っていうのから見えてくる人」で、前田監督とはかなりコミュニケーションを取り、うまく乗せてもらったそう。そんな監督も、母親の前では子供なんだろうな、と綾戸さん。
「いくつになってもお母さん。うちの母親なんか、もう90歳やで? でも、誰に会いたい?って聞いたら、智恵ちゃんって答えるかな思ったら、お母ちゃんって言うよ。光枝さんも、会いたいって思わせるお母ちゃん。だから、(鹿野は)会いたくないって言うたんちゃうかな。会いたくないは、会いたいの裏返しやからな」
「監督は、私にできんことを言うて、“そやねん。近づいてきた”って褒めてくれたり、上手に言う人。監督の仕事が合ってんねやろな」