「桜の花から生まれた炎が世界中の人々の心を開花させていく」
――松岡さん
吉岡さんデザインの聖火リレートーチは上から見ると端正な桜の花の形。5つの花びらから生み出される炎は上部中央で1つの大きな炎となり、日本各地を照らしていきます。松岡 制作するうえで、何にいちばん苦労されましたか?
吉岡 いやぁ、全部ですね。重要なのはトーチより炎そのものだと思い、これまでにない新しい炎をどうやって生み出すかを考えたとき、桜の花びらから放たれた5つの炎が中央で1つの大きな炎になるというイメージが浮かびました。桜が炎とともに開花していくイメージです。
松岡 その炎が世界中の人々の心を開花させていくということですね! でも、イメージしたものが、技術関係の人から「現実的に作るのは無理」といわれたことはありませんか。
炎の原理を勉強して燃焼機構を開発
エンブレムが格調高く輝くトーチは、全長710ミリ、本体重量1.2キロ。吉岡 そういうこともありますが、まず、デザインを見せるときは図面や3Dも一緒に示して提出するんです。こういう原理で、この仕組みならうまくいくのではないか、などと書いて。燃焼機構については、自分でも炎の原理を勉強して、アイディアをたくさん出しました。
すると、根本的に無理なものもたくさんあるのですが、「試す価値はあるかも」というものも出てくるんですね。燃焼のプロから見ればイレギュラーだけど、トーチとしてなら面白いかもしれない、というようなものが。
松岡 それで完成したのが、強い雨や風でも消えない炎なのですね。
吉岡 少し難しい技術ではありますが、白金を使用した保炎機能によって炎を守るような仕組みになっています。
松岡 すごいですね! 難題をクリアしてイメージを実現させていく、そのパワーの源は何ですか?
吉岡 執念です。
松岡 執念!?
吉岡 途中で断念したらすべてが無駄になってしまいますから、絶対何か方法があるはずだと信じて考えました。アスリートのみなさんは、大舞台に向けて血が滲むような努力をされていらっしゃる。だから、僕もこのトーチを実現させるにあたっては、限界まで挑戦して、絶対に悔いの残らないようにしようと決めていたんです。
松岡 トーチ作りが、徳仁さんにとっての東京2020なのですね。
吉岡 そうですね。本当にたくさんの技術者のかたがたのおかげで完成することができました。
松岡 僕はみんなが心を1つにできることこそが、オリンピック・パラリンピックの醍醐味だと思っているのですが、すでにそれを体感していらっしゃいますね。