猛暑の夏が去り、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のメインスタジアムとなる新国立競技場もほぼ完成に近い姿になりました。日本を含む各国では大会に出場する代表選手が決まり始めています。今回松岡さんが語るのは、大会を支えるボランティアの話。東京2020大会では11万人以上になるとされる皆さんへのエールでもあります。
7月19日、東京2020大会の大会スタッフ(大会ボランティア含む)および都市ボランティアのユニフォームが発表されました。藍のグラデーションにエンブレムを重ねたデザインはフィールド キャスト(大会スタッフ)用、大きな市松模様がシティ キャスト(都市ボランティア)用。※大会ボランティア(フィールド キャスト)は8万人、東京都の都市ボランティア(シティ キャスト)は3万人、その他競技会場のある自治体で都市ボランティアの募集があります。写真/Tokyo 2020提供ボランティアは大会の印象を左右する重要な存在
オリンピック・パラリンピックにおいて、ボランティアの皆さんは非常に重要な存在です。閉会式でIOCの会長は必ず最初に「サンキュー、ボランティア」と言いますが、大会の成功はボランティアの皆さんにかかっていると言っても、過言ではないでしょう。僕はボランティアの人が笑顔で声をかけてくれると、たちまち、「この国の人たちはいい人たちだなぁ!」と嬉しくなります。
世界大会を開催するというのは、単独のスポーツであっても大変です。たくさんの競技が同時に行われるオリンピック・パラリンピックであれば、なおのこと(東京2020大会ではオリンピックが33競技、パラリンピックが22競技)。それを大きな問題なくやり遂げるというのは、ある意味、奇跡的なことだとさえ僕は思います。
規模がとてつもなく大きく、関わる人の数も膨大ですから、当然、すべてがパーフェクトにはいきません。そんなとき、潤滑油となって大会を支えてくれるのが、それぞれの持ち場でがんばるボランティアの人たちなのです。
今の時代、どの大会もセキュリティチェックには神経を使っています。覚えているなかで一番徹底していたのは、アメリカで同時多発テロ事件が発生した翌年、2002年に行われたソルトレークシティ大会です。毎日、メディアセンターに入るまでに車の検査が2回、荷物検査が3回ありました。
そこまでではなくても、オリンピックでは荷物検査のために列ができ、待たされることは多々あります。そうなると、安全のために必要なこととわかっていても、つい「面倒だな」とか、「早く会場に入れてくれよ」というような気持ちにもなりがちですよね。
でも、そんなとき、荷物検査をするボランティアの人が笑顔で「お待たせしました!」と声をかけてくれたら、どうでしょう? こちらも快く荷物を差し出せますよね。仏頂面で対応されるのとでは、受ける印象がまったく異なります。
荷物検査を終えたお客さんが気持ちよく観戦へ向かえるか、ひいては日本はいい国だったなと思って帰ってもらえるかは、そうしたボランティアの皆さんの小さな気遣いによるところが大きいと僕は思っています。
印象に残った海外のボランティア
これまでの大会で出会ったボランティアの人たちは皆さん、積極的にお客さんとコミュニケーションを取っていました。2016年のリオ大会なんて、「ハーイ!調子はどう?」などと友達のように話しかけて、そのまま本当に友達になっちゃう感じ。僕はその明るさ、フレンドリーさがとても好きでした。
2018年の平昌(ピョンチャン)大会のボランティアは皆さん英語がよくできるなという印象でした。あと、いいアイディアだなと思ったのが、プラカード作戦です。「こんにちは」とか「笑顔でいこうね」と書かれたプラカードを持ちながら、活動している人をたくさん見かけました。
事前に猛特訓したという、2008年の北京大会のボランティアの笑顔と英語も素晴らしかったですね。北京大会というと、大会前の取材で見かけた現地のかたがたのやり取り印象に残っています。コーディネーターさんに会話を訳していただくと、「今そこにいた男性がガムを道に吐いて捨てたら、もう一人が『やめろ、もうすぐオリンピックがくるんだぞ』と叱った」と。オリンピックを開催するということは、その国の人たちの意識も変えるほど大きなことなんだと改めて実感した出来事でした。
1964年の東京大会前も同じようなことがあったと聞いています。それまでの日本はごみを道に捨てるのが当たり前だったのが、世界中からお客さまを迎えるために「ごみはごみ箱に」となり、街がきれいになっていったそうです。ボランティアの話から少しそれましたが、それくらい、オリンピックは、開催する国とそこに暮らす人々に大きな影響を与えるということですね。