愛とユーモアのある横顔
©Beethoven-Haus Bonn
1823年カフェでくつろぐベートーヴェンを描いた一枚(ベートーヴェン・ハウス・ボンに展示)。テーブルの上には、やはりワイングラスが。「わたしは人間のためにこの精妙な葡萄酒を搾り出すバッカスです」――ベートーヴェン
「実は繊細でロマンティック」「優しい」とも囁かれるベートーヴェン。生涯の伴侶を得ることはなくとも熱愛の相手は多くいました。
ベートーヴェンの死後に見つかった“不滅の恋人”への手紙。「どんなに君が僕を愛しても、僕の方が強く君を愛している」。熱い想いを伝えようとするベートーヴェン(ベートーヴェン博物館に展示)。一生手もとに置いていた“不滅の恋人”への書簡からは、強く愛を求め信じていた姿が窺えます。
また駄洒落好きで、医者を呼ぶ深刻な手紙にもこんな言葉遊びにメロディをつけたカノンの一節が書かれています――「医師(ドクトル)は死(トット)の扉(トール)を閉じる。音符(ノーテ)も貧乏(ノート)から救う」。
「最も愛すべき母であり、最良の友人」とベートーヴェンの言葉が刻まれた母のお墓(アルター・フリートホーフ[ボン旧墓地]。ベートーヴェン・ハウス・ボンより徒歩約10分)。自分によいところがあるとすれば母のお陰です、と語っていたように、母親から愛嬌ある一面を受け継いでいたようです。
1825年にベートーヴェンが黒駱駝亭(ツム・シュヴァルツェン・カメール)で書いたワイン注文書。キプロス、オーストリア、ウィーン近郊の名物ワインなど、甘口から辛口まで多種を注文したことが、直筆で書かれています。裏面には甥との会話も。老舗カフェは現在も同じ場所にあり、ベートーヴェンが過ごした空間に身をおくことができます。ベートーヴェンの葬式が営まれた三位一体教会(臨終の家から徒歩8分)。天上には三位一体を表す鳩が。「友よ、喝采せよ、喜劇は終わった」――ベートーヴェン
終わったのは悲劇ではなく、“喜劇”。ギリシャ古典の常套句を引用した臨終の言葉は、人生の苦悩も歓喜もすべて音楽に昇華したベートーヴェンらしい一言かもしれません。
最晩年に改作した弦楽四重奏曲第13番終楽章も死の影が感じられないほど軽やか。
56年の生涯を閉じる前、ベートーヴェンは故郷のワインと好物のチェリーコンポートを所望し、友人たちの見舞いを受け、精一杯のユーモアでこの言葉をつぶやき、旅立ちました。
中央墓地に眠るベートーヴェン。今も参拝者の花束がたえず、世界中の人々に愛され続けています。近くにモーツァルト、シューベルト、ヨハン・シュトラウス父子などのお墓も。友人に棺を担いでもらい、2万人の市民に見送られ三位一体教会へ運ばれたベートーヴェンは、今、中央墓地に眠っています。