「侘び茶黎明期に思いを馳せて、唐絵の軸にしましょう」─藤田さん
茶会前日に本番の茶室に集まって、道具の取り合わせをあれこれ考えるのが何より楽しそうな三人。珠玉の作品ばかり軸を三本も広げて、贅沢な美術談議が繰り広げられる。左から・伝 玉澗「梧桐小禽図」(元時代)、覚明筆 書状(鎌倉時代)、小倉色紙(鎌倉時代)。掛軸は、茶碗はと悩むのも楽しみのうち
藤田 さて軸はどうしますかね。この書状は鎌倉時代の覚明(かくみょう)の筆なのですが。
千 覚明といえば南都奈良の学僧で、平 清盛を誹謗したことで逆鱗に触れ、奈良が全面焼き討ちにあったという惨事の原因がこの人……。
戸田 いい字書いてはるけど、奈良の茶会には縁起悪いなぁ(笑)。
藤田 戦国時代の茶会の会記に何度か登場する小倉色紙はどうでしょうか。茶碗が天目で重厚な感じになるので、少し軽みを出すというのは?
千 軸装の裂(きれ)も素晴らしいですね。でもちょっと華やかすぎる?
藤田 利休以前の茶ならやはり、当時もてはやされた唐絵が落ち着くかなと、伝 玉澗の花鳥画も持ってきました。
戸田 格調高くて、鳥の細部まで写実的に描かれて。いかにも南宋画の系譜が雰囲気にぴったりじゃないですか?
千 そうですね。王道で行きましょう。
戸田 釜はやっぱり姥口にします?
藤田 そうね。この釜は織田信長が柴田勝家の忠誠に対して褒美に譲ったという、戦国時代そのものの由来があるのだけれど、そのときに詠まれた狂歌というのが……。
戸田 「なれなれてあかぬなじみの姥口を 人にすはせんことをしぞ思ふ」。
千 つまり、慣れ親しんできた愛しい婆さんの口を、他人に吸われるのはえらい惜しいなぁという意味で。えげつない歌です(笑)。
藤田 さて、道具も決まったし、茶碗もたくさんあるし、一服しませんか?
千・戸田 待ってました!
〔特集〕【藤田美術館の新たな船出】新年の茶事(全2回)
【家庭画報読者に向けた特別開催】太閤園開業60周年記念「太閤茶会」
明治期に築造された「淀川邸」の離れの茶室「残月」。 現在リニューアル工事中の藤田美術館の向かいにある太閤園は、藤田美術館を築いた大実業家・藤田傳三郎が明治43年頃に築造した「網島御殿」を前身とし、現在はレストランや料亭、結婚式場などを運営しています。 開業60周年記念の結びとして、家庭画報読者に向けて、記念茶会を開催いたします。今回、家庭画報本誌で用いた茶道具を間近にご覧いただけるほか、藤田 清館長、千 宗屋さん、戸田貴士さんの鼎談、千 宗屋さんの監修による点心をお楽しみいただける貴重な機会です。ふるってご参加ください。
「淀川邸」は、本邸・東邸、西邸からなる「網島御殿」のうち唯一残る東邸だった建物。傳三郎の美意識に触れることができる。実施概要 開催日:2020年3月15日(日)、16日(月)、17日(火) 募集人数:各日75名 席主:藤田美術館 茶席:太閤園淀川邸 「残月」 点心席:太閤園淀川邸 「紹鷗の間」ほか(料理監修:千 宗屋) 会費:3万5000円(1名さま) 主催:太閤園 TEL:06(6356)1110(予約係) 大阪市都島区網島町9-10
https://www.taiko-en.com *茶会に参加されるかたは、13時15分~14時に行われる千 宗屋、戸田貴士、藤田 清による鼎談をお聞きいただけます。
応募先 太閤園 TEL:06(6356)1110(予約係) 予約受付時間:9時~19時 お電話で、先着順にて承ります。ご希望の日時と参加人数、ご連絡先をお知らせください。お支払いはヤマト運輸の代金引換サービス「宅配便コレクト」となります。チケットの発送は2月下旬を予定しております。お受け取り時に代金と引換手数料をお支払いください。チケットお受け取り後はキャンセル不可となります。 *予約状況により、日時のご希望に沿えない可能性もございます。ご了承くださいませ。 *茶会の取り合わせの内容は、一部変更になる場合がございます。あらかじめご了承くださいませ。
撮影/小野祐次 着付け(本木さん、細川さん)/石田節子 取材・文/松原麻理 構成/安藤菜穂子
『家庭画報』2020年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。