現在、33歳の中村さん。「理想の将来像は、夫婦で手をつないで散歩するおじいちゃん。孫と犬の糞を見つけて、はしゃぐようなおじいちゃんになりたいです(笑)」。でも好きなんだよね、だったらやるしかないよね
自身にとって舞台は「居心地がいいということじゃなく、時折顔を出さないといけないという意味で、実家みたいな場所(笑)。役者として育ててもらった実感もあるし、今後もやっていかなきゃと思ってます」と話す中村さん。
高校1年生のときにスカウトされ、今も所属する芸能事務所の養成所に通ううちに「芝居って楽しいな」と思うようになり、映画のオーディションを受けて合格。18歳でデビューしたが、なかなか俳優業だけで生活できるようにはならなかった。
「仕事がない、つまり自分には魅力と能力がないんだから、やめたほうがいいなと思ったことも何度もあります。でも好きなんだよね、だったらやるしかないよね、と腹を括ったのは20代半ば頃。以降、やりたいことをやれるようになるためには何をすべき?ということを自問自答しながら、今に至っています。
親にも心配をかけたと思うんですけど、自分が働いている姿を見せられるのがこの仕事なので、そこは俳優をやっていてよかったなと感じるところではありますね。少しは親孝行になってきているのかなと(笑)」
冷静かつ客観的に自分のことを話す一方で、家族の話になると、ふっと表情が和らぐ中村さん。
誕生日などの記念日をとりたてて祝う家ではなかったそうだが、「家族でレンタルビデオ店に行って、1本ずつ好きなものを借りてきては、一緒に観るのが好きでした。今思うと、オカンが映画好きだったのかも」。
家族でよく覗く小さなペットショップもあったそうで、そこで出会ったハムスターを飼えるようになったのは、小学1年生のとき。以来、ハムスターの飼育歴は20年以上。今も自宅で2匹飼っているという。
「生き物はいつ死ぬかわからない。飼っている以上は幸せにしてやらないとみたいなことは、結構昔から考えていたと思います。もちろん死んだときは悲しいし、いろんな感情が込み上げてくるんですが、いちばん強いのは“お疲れさま”という気持ちですね。ちょっと感覚的にズレているのかもしれませんが、人が亡くなったときもそうなんです」
そこには、寿命2、3年の小さな命を大切に愛しみ、幾度も出会いと別れを重ねてきた中村さんの無常観のようなものを感じる。
「どうなんでしょう。ただ、そんな自分の死生観や自分自身への疑問を入り口に、賢治につながっていける気はしています。もっと賢治について勉強して、でも概念的な部分は決めつけすぎずに提示して、賢治の詩や童話を読んだ後と同じように、観てくださるかたの中で世界が広がるような舞台にしたいですね」
中村倫也(なかむら ともや)さん
1986年、東京都出身。2005年に俳優デビュー。14年の初主演舞台『ヒストリーボーイズ』で読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。主演する連続ドラマ『美食探偵 明智五郎』が放送中。主演映画『水曜日が消えた』が近日公開予定。(
『水曜日が消えた』公式ホームページはこちら>>)
※記事は、『家庭画報』2020年6月号取材当時の情報です。映画の公開状況が変更となっている場合もありますので、最新情報は公式ホームページ等でお確かめください。シス・カンパニー公演
『ケンジトシ』
作/北村 想
演出/栗山民也
出演/中村倫也、黒木 華、段田安則、田中俊介、稲継美保、河内大和、斉藤直樹、野坂 弘、依田朋子
ビオラ演奏/向島ゆり子
シス・カンパニー:03(5423)5906
公式URL:
http://www.siscompany.com/kenjitoshi/gai.htm※『ケンジトシ』は、2020年6月~7月に東京と大阪で上演される予定でしたが、新型コロナウイルス感染防止の観点から、残念ながら上演延期(時期調整中)となりました。詳細はシス・カンパニーの公式サイトまで。 取材・構成・文/岡﨑 香 撮影/筒井義昭 ヘア&メイク/高橋里帆 スタイリング/戸倉祥仁〈holy.〉
『家庭画報』2020年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。