対談の翌日、羽生さんは第70期王将戦リーグの開幕戦に登場。藤井聡太二冠に対して公式戦初勝利を挙げました。写真提供/日本将棋連盟「棋士に求められるのはオリジナリティ。それは10代も70代も同じです」── 羽生さん
松岡 羽生さんというと、昔は寝癖が注目されたりもしましたが、佇まいや仕草、言葉に独特の感性、個性を感じます。藤井さんにも同じようなものを感じるのですが、棋士のかたはみなさん個性的なのでしょうか。
羽生 将棋の世界では個性やオリジナリティがとても大事だということは1つあると思います。基本的なセオリーはプロならみんな知っているので、求められるのはそれ以外の部分でいかに違いを出すか。これは10代も70代も棋士はみんな同じです。
天才将棋棋士も家ではぼんやり?
松岡 違いを出すため、対局に勝つため、ものすごく頭を使われると思うのですが、普段の生活でも同じように常に考えられているのですか?
羽生 いえ、四六時中頭を使っていたら疲れ果ててしまうので、普段は細かいことには全然気を遣わず、ぼんやりしています。
松岡 となると、奥さまは相当大変そうですね。
羽生 そう思います。棋士の生活というのは会社勤めの人の生活とはかなり違うので、おそらくですが、今も戸惑うことはあると思います。「何を考えているかよくわからない」というところもあるのかなと。
松岡 でも、ご家族は、羽生さんの人生はもちろん、将棋においても、力になっているのではないですか。
羽生 はい。将棋の世界というのは、ちょっと殺伐としたところもあるので、全く違う穏やかな生活が一方にあるというのは非常にありがたいことだなと思っています。
松岡 穏やかな生活、いいですね。僕は自分の子どもにテニスを教えるとき、つい感情的になってしまって、ジュニア選手を教えるときのようにはできないんです。羽生さんはお子さんにも冷静に接していらっしゃいそうですね。
羽生 うーん、冷静というより、わからないので何もいえなかったというのが実感です。子どもは2人とも成人しましたが、勉強もお稽古事も、私がやってこなかったことに取り組んでいたので、見てもわからなかったんです。もし棋士を目指しているというようなことだったら、「こういう練習がいいんじゃないか」とか、いっぱいいっていたと思いますよ。残念ながら、そういう機会がなかったというところですね。