73種類すべてを一人でデザインした理由
松岡 納得のゆくものが完成してまもなく、大会が延期になりました。そのときはどんな気持ちでしたか。
井口 いやぁ、正直、虚無感に襲われました。1年くらいずっと夜遅くまで残って、一人で作っていたので。
松岡 73種類、すべて一人でデザインされたんですか!?
井口 いつもはチームで作るんですが、このプロジェクトは一人でやるべきだと考えたんです。一つは、絵を動かすという仕事は作り手のリズム感や個性がすごく出やすいものなので、何人もで作るとうまくいかないと思ったんですね。
松岡 なるほど。
井口 あと、映像というと、流れ作業で量産されているイメージがあるような気がして、職人的な情感みたいなものを込めたかったんです。そのためにも、全部一人でやったほうがいいと判断しました。
松岡 素晴らしいです。この挑戦を通して、皓太さんはどんなことを感じましたか。
井口 僕はスポーツ選手の動きを理解するためにかなりの数の映像を観たんですが、ドキュメンタリー番組だとつい感情移入してしまって。涙を流しながら、自分の体を使って動きを確認したりしていたんですね。
松岡 夜中に一人泣きながら(笑)。
井口 はい(笑)。そのなかで、スポーツ選手と僕らは本質的な部分ですごく近いと感じたんです。競技を極めたいという思いと、よりよく美しいものを作りたいという思いは近いなと。僕はよく「熱量」という言葉を使うんですが、ものを作るというのは自分の命を削るような感覚もあって、ものすごく熱量がいるんですね。その熱量を設計できるかが、本当に重要なんです。
松岡 熱量なくして、いいものは生まれないんですね。
井口 おっしゃるとおりです。自分が携わるからには熱量のあるものを世の中に届けないとと常に思っています。松岡さんの前でいうのもなんですが、やはり情熱が大事ですよね。