秋吉シェフが実際に選んだ魚介、野菜などの食材。マルシェで仕入れた魚介・野菜と、
京都の器・食材の出会い
宮川香齋家は2016年にパリで茶会を実現させていますが、茶懐石となるとそれを上回る挑戦。この催事を可能にしたのは、かねてから縁のあった秋吉雄一朗シェフの存在です。
茶会の年、秋吉シェフはパリのOECD 大使公邸で公邸料理人として活躍していましたが、実は宮川家がずっと懇意にしている京都の名料亭「瓢亭」で10年以上修業を積んでいて、その間、宮川家の茶事で料理方を務めたこともありました。
しかも秋吉シェフはパリに茶懐石の店を出すという夢を実現させつつあるところ。つまり、宮川さん、秋吉さんの二人の夢とタイミングが合致したことで実現可能になったイベントなのでした。
パリ16区のプレジダンウィルソンのマルシェで買い出し中の秋吉シェフ。献立はすでにほぼ決めていたが、有機野菜専門のスタンドで見つけた黄色いかぶを煮物椀に、また鮮魚のスタンドで目に留まったあわびを焚合せに加えるアイディアが新たに湧いてきた。「フランスの有機野菜は味が濃くておいしいと思います。黄色いかぶは普通のものよりもホクホクとしていて、さつまいもにも近いような食感があります」と、秋吉シェフ。向付用に買い求めたブルターニュ産のドラード・ロワイヤル(黒鯛)は、マルシェから厨房に戻ってすぐに三枚におろし、昆布じめにした。今回の宮川さんの挑戦については、京都の料理関係の老舗からの支持も厚く、さまざまな食材が寄せられました。そして新鮮さが求められるものは、パリの食材を熟知している秋吉シェフが早朝のマルシェに出向き、五感で納得したものを吟味して万全を期します。
今回の大きな目的は、懐石の要である向付の器を手にして、実際に料理を味わってもらうこと。上から、ワラ灰釉柳桜の絵蛤型向付(春)、染付海老の絵鮑型向付(夏)、ワラ灰釉竜田川平向付(秋)、乾山写雪椿筒型向付(冬)と、四季折々の意匠の器を京都から持参した。茶懐石に使われた京都の食材や調味料。「田鶴農園」のすぐきの漬け物、「八代目儀兵衛」の特別ブレンド米、「山利商店」特製の白味噌、「松島屋本店」の昆布とかつお節、「竹野酒造」の日本酒、「村山造酢」の千鳥酢、「松野醤油」の濃口、薄口醤油など。京都の茶懐石の味をパリで再現した。