環境農家への道 アトリエ「オーレリアンの庭」で知られる写真家で切り絵作家の今森光彦さん。理想の里山を実現するべく、自ら農業従事者となり数年前に滋賀県大津市仰木地区の荒地を取得。その荒野を「オーレリアンの丘」と名付け、たくさんの蝶が集う美しい場所にすべく奔走する、今森光彦さんのエッセイです。
これまでの記事はこちら>> アトリエの敷地内にある野仏。夏場は、こんもりとした森の中にある感じで、暗さのためその存在感は薄いが、秋から冬、そして春にかけては、光線や木々の色合いによって驚くほど多様に表情が変わる。今森光彦、環境農家への道
第17回 年月を見守る、山の神様(前編)
(写真・文/今森光彦)
秋がすすむにつれて、庭の自然が美味しい香りを放つようになる。春から初夏にかけて花が咲き、猛暑の中で実が育ち、涼風がたつころに、嬉しい恵みをもたらしてくれる。 栗や柿、柑橘類など、それぞれが毎年、ちゃんと決まったころに、存在感をもちはじめる。
農地開墾の中で、私にとって願ってもかなわないプラスアルファの出会いがあった。それは、里山をテーマに写真を撮っているときに、風景の中にさり気なくあったものだ。いや、それは、ものではなく、小さな空間と表現したほうが、正しいかもしれない。
竹林の伐採をはじめて半年ほどたったとき、ようやく南側から向こうの景色がちらほらみえてきた。そのとき、私の師匠である専業農家の西村さんが、汗だくになりながら「山の神がみえてきた」と、私に言った。