津波で家族を失ったハルと森尾。現在は広島に住むハルをモトーラ世理奈さん、かつて原発で働いていた森尾を西島秀俊さんが演じる。失ってしまった大切な人ともう一度話したい。岩手県・大槌町の海を見下ろす丘に設置された、“風の電話”と呼ばれる電話ボックスには、東日本大震災以降多くの人が訪れ、電話線のつながっていない電話で亡き人に思いを伝えています。その電話をモチーフにした映画『風の電話』は、ハルが様々な人と出会いながら、広島から故郷の大槌町へ旅をする物語。ハルを演じるモトーラ世理奈さんと、ハルと最も長く共に旅する森尾役の西島秀俊さんにお話を伺いました。
——まず最初に、脚本を読んだ感想を教えてください。
モトーラ世理奈さん(以下、敬称略):オーディションを受ける前に台本をいただいて。でも、読み進められなかったんです。つらい気持ちがあふれてきちゃって。だから、やりたくないなと思っていました、最初は。ちょっとつらすぎて。
西島秀俊さん(以下、敬称略):僕が最初に諏訪(敦彦)監督と会ったときは脚本があって。その脚本が素晴らしかったんですよ。それで、撮影に入ったら、脚本はやっぱりなくしますということで、急にハードルが別次元に上がったという感じでしたね。
——最初はやりたくなかったというモトーラさん。オーディションにはどんな気持ちで臨みましたか?
モトーラ:オーディションの日がきてしまったので、行くしかないし、せっかく行くんだったら、ちゃんとやりたいなと思って行きました。オーディションのときは、ハルになるというよりは、自分の気持ちがこみあげてきてしまって、何か聞かれてもあまり答えられなくて。1回目のオーディションは、そんな感じで何もできなかったんです。でも、2回目にまた来てください、と。その2回目から、台本がなくなって、設定が書かれた紙だけで即興のお芝居をしてくださいってなったんです。それが、私はやりやすかったというか、自分に合ってるなと思って。2回目になってやっと自分の気持ちというよりもハルになってやることができて、そこからこの役をやりたいなと思うようになっていきました。
——2回目のオーディションのやり方が合っていたということは、現場に入って「脚本はなくします」となったときも特に戸惑いはなく?
モトーラ:そうですね。自分にとって新しいことだったので、楽しみだなというふうに思っていました。