カルチャー&ホビー

武者小路千家第15代家元後嗣・千 宗屋さんが語る「戦国・漢(おとこ)の茶」

2020.01.27

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【藤田美術館の新たな船出】新年の茶事 最終回(全2回) 2022年のリニューアルオープンに向けて現在休館中の藤田美術館。その所蔵品を鑑賞する不定期連載、今回は茶会仕立てでお届けします。お客さまは2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』で斎藤道三を演じる本木雅弘さんと、陶芸家の細川護光さん。ドラマの世界になぞらえて戦国時代の茶の湯をよみがえらせ、凜とした男五人衆が集いました。前回の記事はこちら>>
湯が注がれて茶碗が生き返る

宋代の建盞(けんさん)に倣って室町時代に美濃で焼かれた天目のうち白釉手は珍しく、貫入が美しい。湯が注がれて茶碗が生き返る。

戦国・漢(おとこ)の茶 八窓庵新春茶会に寄せて
──武者小路千家第15代家元後嗣 千 宗屋


2018年の興福寺中金堂落慶慶讚茶会、2019年の奈良国立博物館での「国宝の殿堂 藤田美術館展」と近年とみに古都奈良と藤田美術館の親和性は高い。


そもそもコレクションの大元の一つである仏教美術には法隆寺、東大寺、興福寺、西大寺等南都の古寺ゆかりの名宝が多く、もう一本の柱である茶道美術も、15世紀後半侘び茶の祖珠光が奈良出身であり、その薫陶を受けた茶人が南都の大寺はじめ塗師松屋など多数この地で活躍していた歴史がそれを裏付け、藤田美術館には彼らにゆかり深い、利休以前の侘び茶や唐物荘厳の威風を伝える茶道具が数多く所蔵されている。

この連載で一度は実際の茶室に茶道具を設えて茶会の取り合わせをし、しかるべき客人を迎えて一座を建立したいと、藤田清館長、戸田貴士君と以前から語り合ってきた。

茶室に男五人衆がうち揃った光景

四畳台目(よじょうだいめ)の茶室に男五人衆がうち揃った光景は、戦国大名の茶の湯もかくやと思わせる凜々しさ。濃茶が点つまでは静寂が場を包む。

令和最初の新春を寿ぎ、新しい時代の到来を共に喜ぶ一会を組み立てるにふさわしいテーマを模索していたところ、予(かね)て知己を得ていた俳優の本木雅弘さんが、2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』にて、権謀術数の限りを尽くし強(したた)かに戦国の世を渡り大名となり織田信長の義父ともなった斎藤道三を演じられると聞き、撮影に忙しい時期に無理を承知でお誘いしたところ快諾を得、さらに主人公明智光秀の末裔であり戦国きっての茶の湯大名である細川三斎公の直系、陶芸家の細川護光さんにもわざわざ熊本からお出まし頂いた。

茶室「八窓庵」

奈良国立博物館の裏手に広がる庭園に、茶室「八窓庵」はある。江戸中期に建てられたもので、古田織部好みといわれ、開口部が多いのが特徴だ。

かくして奈良国立博物館内にある元興福寺大乗院の織部好みの茶室「八窓庵」を舞台に、戦国武将もかくやの茶筵(ちゃえん)が繰り広げられた。

テーマが戦国時代、場所が侘び茶勃興の地奈良である以上、用いる道具は侘び茶成立以降、利休以前のものでなければならない。残念ながら明智光秀、斎藤道三ゆかりの茶道具は世の中にほとんど現存しない。が、茶道具の基本ともいうべき釜はすんなり決まった。

両将にゆかり深い織田信長が愛用し、重臣柴田勝家に下賜し狂歌を詠んだ逸話で有名な「天猫姥口釜」だ。すべての歴史をただ黙って見つめて来た名釜は、当日も訳知り顔に炉にその姿を鎮め客人の到来を待った。

客が席に入り先ず拝見に及ぶ床の掛け物には、利休以前の茶掛けの主流であった「唐絵」の花鳥画、元の玉澗の手になる珠玉の小品「梧桐小禽図」が選ばれた。

いっぽう点前座には珠光のことば「和漢の境を紛らかす」に倣い、武野紹鷗所持の信楽の侘びた佇まいの蹲水指、最も古様な唐物茶入である大海「敷津」が盆に据えられ、添えられた飴色の象牙の茶杓も紹鷗作。

やがて私が持ち出したのは黒漆の唐物天目台に据わった和物天目の雄「白天目」茶碗。ただでさえ伝世品が少ない白天目を茶席で拝見することは極めて稀、まして客人にゆかり深い美濃の産とあっては今日これを用いない手は無い。

正客が台に据わったままの天目から慣れぬ手付きで啜一啜と茶を頂くさまは、まるで武将が初めて茶席に通されお茶を嗜むような緊張感があり、それが妙に生々しくその頃の茶席を想起させた。

茶会に使わなかった候補の茶碗

茶入のほか、茶会に使わなかった候補の茶碗も拝見に出された。ふだんは美術館のケースに収められている逸品に手を触れて愛でる至福のひととき。

やがて点前も仕舞いにかかり、道具の由来、取り合わせの趣向を紐解くうち客人と亭主も打ち解け、席中に柔らかい空気が流れる。

余韻を楽しみつつ頂く薄茶の茶碗も珠光青磁や瀬戸菊花天目、美濃ゆかりの「土岐伯庵」と贅沢なラインナップ。やがて最後の茶入拝見、盆が手元に来ると内側より「麒麟」の出現でオチはついた。

古物を用い、由緒ある茶席を舞台にしても、趣向と想いを常に新たにすればそれは今を伝える「生きた茶」になると、参加した誰もが感じた一座建立であった。

●本木雅弘さん、細川護光さんをお迎えした、八窓庵新春茶会の様子はこちら>>

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