桐島ノエルの温泉ダイアリーズ 国内外問わず多くの“いい湯”に浸かってきた桐島ノエルさんが、ご自身の記憶に残る温泉の魅力を綴ります。
これまでの記事はこちら>> 部屋の内湯からの眺め。心の奥の扉を解き放つ伝統の湯宿
大分県 由布院 玉の湯
(文/桐島ノエル)
31歳で結婚し、カナダのバンクーバーに移住した。
森と海と山に恵まれた素晴らしい環境。しかも日本と同じくリングオブファイヤー、環太平洋火山帯に位置しているのだから、さぞかし温泉も豊富かと思いきや、塩素がたっぷり入ったプールに水着を着て入浴するスタイルの味気ないものがほとんどだった。
カナダでの生活が長くなるにつれ、私のホームシック、いや「温泉シック」はますます募り、日本に里帰りをするたびに温泉に通った。
とはいえ当時はまだ30代。お金もなければ知識もない。
そこで、私は資金力豊富で旅好きの母に寄生し、あちこちの温泉に連れて行ってもらった。
そしてある年、母のお友達にご招待いただき訪れたのが「由布院 玉の湯」だった。
その衝撃、感動は今でも忘れられない。
自然に溶け込んだ、ナチュラルテイストの山小屋のような、心安らぐその空間。好き嫌いの激しい私でも完食できる、考え尽くされた食事のメニュー。
隅々まで目が行き届きながらも出過ぎない、絶妙なサービス。長湯もできる適温の、とろとろと包み込むような優しいお湯。
何を取っても本当にちょうどいい、完璧なお宿だったのだ。
客室からは間近に緑が迫り、まるで森に抱かれているような心地よさ。いくら見ていても飽きない、こんな庭が欲しい。